第24夜 勘違いのラブレター




  ―――それは日常の一部。


  「たすけてぇーーー!ちゃん、っていうかエンティルぅーーー!!」

  が仕事着の白衣を着て科学班に入ると、彼女とその後ろから付いてきたエンティルの姿を見るなり、
  涙ながらにコムイが助けを求めてきた。

  見渡せば、積みに積み重なった大量の書類の山に、ボロボロの科学班員たちの存在があった。

  「死闘敗北のあと?」

  「それ以前に、手を付けていない書類があると思う」

  書類と格闘した後かとも思ったエンティル。
  それに対して、は冷静に推測を述べた。

  「見ての通り、書類が山のように溜まっちゃって困ってるんだ・・・。
   ちゃん、エンティル共々、助けてv」

  「語尾にハートマーク付けても可愛くないぞ。むしろムカツク

  笑顔で可愛い子ぶるコムイを、冷たいさを帯びた無表情のエンティルが言葉で切り捨てた。

  いつもながらとは言え、ちょっと傷ついたコムイはイジける。
  
  それもいつものことなので、あえて無視。
  
  「しょーがないなぁ〜。みんなボロボロだし、書類の処理、手伝うよ」

  「ほんとに!?」

  「ありがとう!ちゃん!!」

  「助かった〜〜」

  喜びの声を上げる面々。

  「待った」

  だが、待ったをかける者がいた。

  「なんでオマエら仕事まで、がやらなきゃイケナイんだ?自分達で片付けろ」

  「まあまあエンティル、こまった時はお互い様だし・・・」

  微かに不快そうなエンティルを、が宥めようとするが―――

  「が手伝ったところで、コイツらの過労死が1・2分延びるだけ。
   やるだけ無駄です
」  

  「うおおおおおおおいぃ!!」

  「オレたち既に過労死決定!?」

  「希望無しッ!?」


  指差しながらキッパリに宣言するエンティルに、みんな涙ながらに訴えた。

  「でもさあ〜〜。エンティルなら、この書類を処理するぐらい、あーっという間にできるよね〜〜〜?
   エンティルがやってくれれば、ちゃんが苦労することもないんだよ〜〜〜?」

  ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべるコムイ。
  
  コムイの狙いはソコだ。
  に書類の処理をやらせるのではなく、彼女をエサに最初からエンティルにやらせるつもりだったのだ。
  人間ばなれした彼の頭脳なら、山の書類も簡単に処理できるだろう。

  コムイの背後にいる科学班員たちもニヤニヤしている。

  「・・・なるほど、わかった。俺が処理する」

  ヤッタ!これでまた仕事が楽になる!っと歓喜の声を心の中で上げる。

  しかし、エンティルを甘く見ていた。
  忘れてはいけない。
  彼が常識から素晴らしいほどズレている、破天荒で支離滅裂だということに――――。

  どこから取り出したのかエンティルの手には、燃え盛る松明(たいまつ)。

  「ファイア」

   書類(未処理)の山に火を放とうとした。

  「「「「「ギャアァーーーーーーッ!!!!」」」」」 

  真っ青な顔で悲鳴を上がる。

  「止めい!止めい!!」

  咄嗟に止めようとはエンティルの服を引っ張った。  
 
  「何しようとしてんだあーーッ!!?」

  リーバーは怒鳴りながらエンティルに詰め寄る。

  「存在そのものの処理。書類が灰になればがやる必要が無くなる」

  「俺たちが最初からやり直しすることになるだろッ!!」

  「そんなこたー知らん」


  
  この後、まだ火を放とうとするエンティルを、が止めることによって騒ぎは納まったのだった。

 
  ―――黒の教団放火(未遂)事件。

  完。



  


第24夜 勘違いのラブレター





  「あ・・・あのぉ〜〜〜」

  「はい?」

  後ろから聞こえてきた声に、は振り返った。

  そこにいたのは、まだ15・16ぐらいの可愛らしい少女だった。
  見かけない顔だが、看護婦のような格好をしているから、おそらくは医療班の娘だろう。

  「えっと・・・、さん・・・ですよね?
   エンティル様とは、いつも一緒にいる・・・、大の仲良しとか・・・」  
  
  (様!?エンティル・・・様・・・!?)
  「・・・大の仲良しかは知らないけど、仲は悪くないと思うよ。
   それから、確かにいつも一緒にいるけど、彼が勝手に私の側にいるだけだけどね」

  エンティルのことを知ってそうな口ぶりに、この少女が彼に用があるのではないかと思い尋ねた。

  「エンティルに何か用?見てのとおり今はいないよ」
  
  「それでいいんです。その時を待ってたんですから・・・」

  ―――その時を待っていた?

  (つまり、エンティルが私の側から離れる時を待っていた、と言うこと・・・?)

  彼女の目的はなんなのだろう。
  は首を傾げた。

  「あの・・・そのぉ・・・、えっと、私の自己紹介がまだでしたね。
   ―――私は、一ヶ月前に入団しました、医療班見習いのアイリーン・クロルドと申します。
   以後、お見知りおきをください」

  「こ、これはご丁寧にどうも。一応エクソシスト兼科学班のです」

  丁寧にお辞儀をして名乗るアイリーンに、慌ててもお辞儀をした。

  目の前にいるアイリーンという少女は、身長も少し小さめで、
  まるでお人形のような可憐さが溢れ出る可愛らしい少女だ。
  
  言わば、見ているだけで守ってあげたくなるタイプ。

  「それで・・・私に何か・・・?」

  「あっ・・・はい・・・。実は・・・その・・・私・・・・・」

  アイリーンが頬を赤く染める。

  「ここここここれを、エンティル様に渡してくださいっ!!」

  目の前に差し出されたのは、白い封筒。

  「別にいいけど・・・、直接本人に渡せば?」

  何故わざわざ本人がいない時に、渡してくれと頼むのだろう。

  「だっ・・・だって・・・、恥ずかしいじゃないですかっ!きゃあーーーー!!

  (きゃあーー、って・・・) 

  赤くなった顔を手で隠して逸らすアイリーンを、理解するのがには難しかった。

  「それに・・・・・」

  「それに?」

  「私・・・、渡そうと思ってもタイミングが悪いのか、いつもうまく渡せなくって・・・・・」

  「タイミングが悪い?例えば?」

  「例えば・・・・―――」

  アイリーンは過去の経験を語りだした。

  

  私、直接エンティル様に手紙を渡す勇気が無くて、科学班の書類の中に紛れ込ませたんです。

  封筒の表には「エンティル様へv」って書いて置いて、誰か見つけた人は、
  きっとエンティルさんに届けてくれるだろうと思って。

  でも・・・・・。

  「この書類にハンコを押したら今日は終わり・・・。
   そしたらリナリーとちゃんと、久しぶりにお茶でもしよぉ〜v」

  ばしゃ

  「あ・・・」

  コムイ室長の前にあった、私の手紙が紛れ込んでいる書類にコーヒーが掛かったのです。

  「もう少しで終わりだったのに・・・、またやり直し・・・(泣)」

  「手が滑った」

  そう言ったのはコムイ室長の背後に立つエンティル様でした。
  手には逆さにしたカップが・・・。

  「なんてコトするんだエンティル!?」

  「安心しろ。ワザとだ」
       
  「何に安心!?それにワザとじゃあ、手が滑ったって言わないじゃんっ!!」


  私の手紙は書類共々、コーヒーで汚れて見れた物ではなくなってしまったのです・・・・・。



  「・・・それは、運が悪かったね・・・」

  「それから・・・・―――」  



  やっぱり私、直接渡そうと思って、ここは王道の曲がり角でエンティル様が来るのを待ってたんです。
  
  すると、とーってもスゴイ勢いでラビさんと神田さんが土煙を上げて走ってきたんです。

  「ギャアーーーー!!エンティルが追いかけてくるーーーー!!」

  「来るなッ!!追いかけてくるんじゃねェーーーーッ!!!」
 

  そう!そしてその背後から続いてエンティル様が!

  私は勇気を出して、ラビさんと神田さんが通り過ぎたら、エンティル様の前に飛び出しました。

  「エンティル様っ!コレ読んでくださ・・・」

  バゴンッ!!

  ドサ・・・


  エンティル様は私に気づくことなく、私をひいて走り去っていきました。



  「・・・エンティルは急には止まれない・・・?」

  「やっぱり飛び出しは危険ですね」

  「よく無事だったね・・・」

  「いえ、無事ではありませんでした。あ、あと・・・」

  「まだあるの?」


  
  今度こそエンティル様に手紙を渡そうと、私はエンティル様の後を追いかけていました。

  するとエンティル様は使われていないハズの部屋に入って行き、これはチャンスだと思いました。

  そして・・・・・。

  ズガッ ドカッ バコッ ガンッ ズドンッ ガコンッ ドーーンッ   

  「オマエらがに近づこうとしているコトなんて、お見通しなんだよ」

  エンティル様は、ファインダー(探索部隊)らしい人の胸倉を掴んで、狂気の眼で睨んでました。

  に手を出そうとしたら、殺ス」

  ドアの隙間から見えのは、呼び出した団員たち(十数名)をエンティル様が半殺しにしていた光景でした。



  「止めて奴をッ!!」

  「でも・・・、カッコイイから何しても許せるって言うか・・・・・」

  「許さないで!!ってか、そんな光景見てもカッコイイって・・・!?(汗)」

  ―――普通、百年の恋も覚めるんじゃあ・・・・・


  確かにエンティルは見た目はカッコイイ。
  だが、コレが何か行動し、喋れば別だ。問題だ。

  「そんなこんなで、ここはさんに頼むしかないかな、って・・・」

  「まあ、別に渡すぐらいはいいけど・・・」

  「ありがとうございます!その手紙お願いします!エンティル様に渡してくださっ・・・」

  バタン


  「え・・・?」

  急な出来事には一瞬固まる。

  「えっ!?どしたの!?アイリーンしっかり!!だっ、誰かーーーー!!!」

  アイリーンは、に手紙を差し出したままの体勢で倒れたのだった。





  * * * *





  その後、エンティルと合流したは、アイリーンの話をし手紙を渡した。

  「で、なんでソイツは倒れたんですか?」

  「なんでも、元々体が弱いらしくて、よく倒れるみたい。
   あの時も、興奮しすぎて倒れたそうだよ」

  「そんなんで医療班?」

  「両親が医療班で、憧れてたんだって」

  「ふーん」

  興味なさそうに生返事してエンティルは手紙を読み出す。
 
  「これは・・・」

  手紙を読んだエンティルはキッパリと断言した。
  
  「果たし状」

  「ラブレターだって!」


  彼のズレた勘違いにはツッコンだ。

  「どこをどう読んだら、この内容が果たし状になる?」

  「コレはどっからどう読んでも果たし状じゃないですか」

  例えば・・・、とエンティルは説明しだす。

  「まずはこの部分」

  「何なに?『あなたのことをずっと見ていました』って、コレのどこが?」

  「つまりこれは、俺の命を常に狙っていたと言うコトです」

  「確かに狙ってたんだろうけど、別に命じゃないと思うよ・・・」

  「それからココ」

  エンティルは文章を指差す。

  「『寝ても覚めても、あなたのことが忘れられない』とは、
   忘れられないほど俺に対して<怒り>か<憎しみ>を抱いてる、と言っているんです」

  「抱いているのは<好意>とか<愛>だとは思わない?」

  「極め付けがココ。『今日の4時に教団の森で待っています』とある。
   これは俺と決闘をする為の呼び出しです」

  「単に人がいないとこで、告白したいだけなんじゃあ・・・」  

  見事にラブレターを果たし状だと思っているエンティル。
  
  はアイリーンに同情した。

  「さて、そろそろ4時だな・・・」

  「えっ、もしかして行くの?」

  「もちろん。売られたケンカは、2倍3割り増しにして返すものです

  (増しの基準がわからない)

  ともかく、このままエンティルをアイリーンに会わせるのは危険だ。
  どんな目に彼女が遭わされるか、分ったものではない。

  アイリーンには悪いが、付いて行きこっそり隠れて見てようと思うだった。

  相変わらずエンティルは無表情だが、彼女は感じていたのだ。
  彼が殺る気満々であることに・・・・・。






 


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