第五夜 episode
堕天使の青年・エンティル(戒めの名)が黒の教団に来てから六日。意識が戻ってから三日が経った。
彼が来てから教団の者達に大きな変化があった。
エンティルは無表情で、表情は眉や口を動かして表すぐらいだ。
口調も淡々としていて、その独特のペースとズレた思考、頭の回転が速いのもあり口では勝てる者はいなかった。
口以外では勝てるのかと言えば、口以外でも勝てないのが現実だ。
―――彼は圧倒的に強かった。何者にも有無言わせぬ強さ。
冷静な状況判断。完璧な戦術。どんな数式も一瞬で解ける頭脳。
特殊な能力。怪力。脚力。身体能力。
何より絶対的な強さ。それは時に神とも思わせた。
リナリー・リーは、そんな彼の監視役になってからというもの、それはそれは苦労の連続だった。
科学班に、そのリナリーが急かして入って行く。
そこにはコムイに任務の報告をしに来た、エクソシストの神田とラビの姿もあった。
「あら、ふたりともおかえりなさい」
「タダイマさ〜」
「・・・・・・」
「もーー!神田、ただいまぐらい言いなさいよ!」
神田は、くだらない・・・とでも言いたげに顔を逸らした。
「あれ?そう言えば・・・エンティルは・・・?」
恐る恐るのリーバーの疑問に、神田やラビをはじめ、その場に居た者達全員がビクッと反応した。
確かにエンティルが居ない。
リナリーは監視役として彼の側に良く居た。
正しくは彼の側に居なくてはいけなかった。
監視用のゴーレムが常にエンティルに付いては居るのだが、
彼がまた、とんでもないことを仕出かす時に制止する勇気ある者が必要なのだ。
「それが・・・少し離れた隙にいなくなっちゃって・・・・・・」
監視役になったと言っても朝から晩まで一緒にいるわけではない。
リナリーにだって私用はあるし、エクソシストとしての任務もある。
任務の時は代わりの人が監視役に付く。
少しの私用の時はゴーレムも付いているので、この場を動かないように釘を刺して離れたのだ。
だが、釘を刺されたぐらいで大人しくしているエンティルではない。
全員の顔が青ざめていった。
「オイ!ちゃんとアイツ見張ってろ!絡まれるのも巻き込まれるのも、俺はごめんだ!!」
「神田くん!しょうがないじゃないか、リナリーだって大変なんだから!」
声を荒げる神田に、リナリーに変わりコムイが反論する。
「で、探してんの?」
「うん・・・」
「ココには来ないんじゃないか?あいつ医者と科学者、特に嫌ってんだろ」
ラビに頷くリナリー。
エンティルは人間を嫌っている。おそらく原因は彼の過去だろう。
しかし・・・彼があんなだからだろうか、そこに怒りや憎しみは無かった。
特に医者や科学者は嫌いで、吐き気がらしく・・・。
『俺の半径1m以内に寄るな。それ以上近づいたら、その頭吹き飛ばすぞ』
実際に、彼が意識を取り戻している時に包帯を替えようと、
1m以内に近づいた医療班の団員が頭を吹き飛ばされそうになった。
団員は無事だったものの後ろの壁に穴が空いていて、一歩間違えたら頭が確実に吹き飛んでいたそうだ。
リーバーの言うことは、もっともなのだ。
「でも、ほら・・・、兄さんの・・・」
視線をコムイに向ける。否、コムイが身に着けている<物>に向ける。
何をリナリーが言いたいのか分った。
「「「「「「メガネ」」」」」」
皆の答えが綺麗に揃った。
「なんでエンティル・・・、ボクのメガネ壊したがるんだろう・・・・・・」
何処かを虚ろに見つめるコムイの声は虚しかった。
第五夜 episode
〜コムイとラビの場合〜
「あぁぁぁ〜〜リナリィィ〜〜〜〜」
先程から科学班にコムイの涙声が、何度も何度も繰り返し聴こえ広まっていた。
コレばっかりで、聴こえてる方はイラつきが限界にきていた。
「室長!いい加減にしてくださいよ!!」
ついにキレたリーバーが怒鳴った。
「だってだって!ボクがリナリーと一緒にいる時間が少なくなったんだよ〜〜〜。
こんなことなら、リナリーをエンティルの監視役なんかにするんじゃなかった・・・・・・」
「どうしたんだ?コムイ室長・・・」
「なんでも新人にリナリーを取られたらしい」
「あぁ、かなりの美形だとかで―――・・・」
「違うやーーーい!!リナリーを取られたんじゃないやーーーーい!!!
リナリーは優しくて世話焼きだから、哀しい過去を持つエンティルを放って置けないだけなんだぁあぁぁ!!!!」
コムイの様子を見ていた科学班員達が小声で話し合うが、バッチリと本人には聴こえていた。
大声でコムイは否定しながら泣き叫ぶ。
「どうしたの?」
((((((この声は・・・っ!))))))
聴きなれた声に、コムイと科学班員達も声の方を振り向く。
胸に抱いた期待通り、教団のアイドルであり癒しであるリナリーが。
そして何故かエンティルの姿があった。そして監視用のゴーレム。
ついでにエンティルは、教団から支給されている白いシャツに黒いズボンを着て、黒い靴を履いていた。
頭の包帯は取れたが、第二ボタンを閉めずラフに着たシャツの隙間からは胸の包帯が見える。
「なんでもないよ、リナリー!」
さっきまで泣き叫んでいたくせに、リナリーを見たとたんに笑顔で機嫌よくなるコムイ。
「科学者に吐き気がするエンティルも一緒か」
意外そうにリーバーがエンティルを見る。
「私はエンティルが黙々と歩いて行っちゃうから、追いかけて来たんだけど・・・」
「え?じゃあキミが、何かココに用があったの?」
コムイはエンティルに尋ねる。
科学班は科学者である団員達が集う仕事場。
吐き気の溜まり場に、わざわざ来たのだ。何か理由があるのだろうと・・・、常識的にそう考えるだろう。
だが彼は常識的ではなかった。
「別に、なんとなく風の吹くまま気の向くまま」
「吐き気がする場所にか?」
「吐き気がするからと言って避けていたら、いつまでも克服は出来ないだろ」
「克服する気あるのか!?」
「全然」
「おい!なんか言ってること矛盾してるぞ!!」
「矛盾はしてない。矛盾とは、つじつまが合わないこと。俺は他人に言っといて自分は実行しないだけだ」
「余計悪いっ!!」
噛み合いの無い会話に、リーバーは突っ込みの声を張り上げずにはいられなかった。
「あはははは。すっかりエンティル、みんなに馴染んだようだね。ボクはうれしいよ!」
「室長・・・、ホンキで言ってんすか?」
エンティルとの会話に疲れたリーバーが、彼らの会話を面白がって訊いていたコムイを半眼で見据える。
「どこをどう見たらそう見える?
お前のメガネは度が合ってないんじゃないのか?ならば、そんなメガネは壊してしまえ」
笑っていたコムイの前を、シュッと何かが掠めた。
気がつけばコムイのメガネはエンティルの手によって盗られていた。
「あっ!ボクのメガネ!」
声を上げたコムイと目が合う。
ふっ・・・と口元で笑ってやると、エンティルはメガネを持ち科学班から疾走して逃亡した。
「エンティルっ!?」
「ボクのメガネーーーー!!エンティルゥゥーー!!ボクのメガネを返してぇーーーーー!!!!」
リナリーとコムイは急いで彼の後を追いかけた。
――――こうして、メガネの運命を賭けた追いかけっこが始まった。
「ん?なんか騒がしいさ・・・」
廊下を歩いていたラビは、遠くから聴こえてくる声や足音に振り返った。
見ると、茶髪の美形青年が疾走して来るではないか。
風の如くラビの隣を通り過ぎた。
「誰さ?あのキレーな兄ちゃん。ユウに負けないくらい・・・いんや、もしかしたらユウより美人かも・・・」
エンティルとまだ会ったことのないラビは、はじめて見る青年を不思議に思い、青年が走って行った方に見る。
「ちょうどいいや、コレ」
「あっ、オレの槌!?」
通り過ぎて行ったと思っていた青年が、すぐそこにいた。手にはいつの間にかラビのイノセンスである槌が。
ラビが太股のホルスターを確認すると、やはり自分のイノセンスは無い。
間違いなく青年が持っているのはラビのイノセンスだった。
「エンティル!!」
彼の名を呼びながらリナリー、とその後ろからコムイがようやく追いつたところで――――。
ガシャッ
「ギャーーーーー!!!ボクのメガネがーーーーーーー!!!!」
床に置いたコムイのメガネを、エンティルがラビの槌で叩き割った。
「あー満足した」
立ち上がるとエンティルは持っていた、用の無くなった槌を後ろにポイっと投げ捨てる。
「オレの槌!」
ラビは投げられてしまった自分のイノセンスを慌ててキャッチした。
「あっ!ちょっとエンティル!?」
スタスタと歩き去って行くエンティルをリナリーが追う。
「いったい、なんだったんさ・・・・・・?」
その場には、槌を掴んだまま呆然とするラビと・・・――。
メガネの残害に涙するコムイだけが取り残された。
ひとり司令室に戻ってきたコムイはデスクの引き出しの中から、スペアのメガネを取り出した。
「ふう・・・、やれやれだね。まったくエンティルは・・・・・・」
自分しかいない部屋で愚痴をこぼしながら、メガネを掛けようとする。
すると――シュッと、また何かが掠めた。
「・・・あれ?メガネが・・・――」
「失礼しまーす。室長、この書類なんですけど・・・」
グシャッ
音が良く響いた。
メガネが無いコムイと、司令室に入ってきたリーバー。気まずい空気が静かにゆっくりと流れる。
リーバーが恐る恐る踏み出した足を退かすと、そこには踏まれ割れたメガネが・・・・・・。
「ななっ、なんでこんなところに室長のメガネが――――」
混乱するリーバーに、親指を立てるエンティルが一言。
「グッジョブ」
「オマエかぁああぁぁぁ!!!!」
全然存在に気がつかなかった。いったい、いつ部屋に入って来たのだろうか。
さっそく2個目のメガネを破壊されたコムイは、ただ単にうな垂れながらずーんと沈むしかなかった。
そしてそれからと言うもの、気まぐれでエンティルにメガネを破壊されるコムイなのであった。
* * * *
〜神田の場合〜
「おいそこの、短気でバカそうなポニーテール」
背後から聴こえてきた淡々とした声に、神田は不機嫌に振り返った。
そこには声の持ち主であろう、茶髪の18・19くらいの無表情の青年がいた。
「あ?」
「眼つき悪いな、お前」
「なんだテメェ・・・」
「お前こそなんだ」
「テメエが先に声かけたんだろが」
「知るか」
「・・・んだと?」
だんだんと神田の眉間に皺と声の不機嫌さが増していく。
―――なんだこの男は。見たことが無い。新入りか?
「・・・お前、新入りか?」
「誰が怪しい宗教団体なんかに入るか」
「今は宗教関係ねぇだろ」
「ま、とにかくお前、愛想悪いぞ。もっと愛想良くしたらどうなんだ」
「テメェに言われたかねぇよ!!」
「俺は愛想が悪いんじゃない。表情が無いだけだ」
確かに彼は神田のように愛想が悪いのとは違う。
悪さは感じさせない、無表情なのだ。
「テメェはいったい何なんだ!?この、能面野郎!!」
「ホントバカだな、お前」
「誰が馬鹿だ!!」
「短気な奴はバカって決まってんだよ」
「テメェ・・・!ケンカ売ってんのかッ!?」
「バカが、気づくのが遅いんだよ」
そのセリフを合図にしたように、ブチッと神田の血管切れた。
周りで見ていた団員達は、この光景に恐怖で竦む。
エクソシストの中でも冷酷な神田にケンカを売り、怒らせたのだ。
誰もが茶髪の青年の死を確信した。
「どうやら死にたいらしいな?―――叩き斬るッ!!!」
手に持っていた刀型の対アクマ武器、六幻を抜刀するとエンティルに斬りかかった。
エンティルは神田の攻撃をヒョイっと避ける。
連続して聴こえる六幻を振るう音も虚しく、神田の攻撃は尽くエンティルに紙一重で避けられていた。
神田の六幻を振るうスピードは鋭く速い。だがそれよりも、エンティルのスピードと反射の方が断然速かった。
「ウロチョロ逃げんなッ!!」
「わかった」
エンティルは神田から少し距離を取ると、そこに立ち尽くした。
逃げる気配も避ける気配も無い。
「馬鹿が!災厄招来!界蟲『一幻』!!」
おちょくられ完全にキレた神田が技まで放った。
技が迫ってくるというのに、やはり青年に逃げる気配も避ける気配も無く。
――直撃した。
「!!?」
直撃はした。しかしエンティルは無傷だった。
見れば彼の背にはダークブルーの大きな翼が。
・・・・・まるで、堕天使だった。
自分を隠すように片翼を前に出し、盾にして神田の技を防いだのだ。
軽く柔らかそうな見た目なのに傷一つ付いていない。
「その程度か、お前の力は。なら今度はこっちの番だな」
背から翼を消し、神田に手を向ける。
「ダークネスサンダー」
エンティルが呟くと、神田の前に黒い雷が落ちた。
間近な光の眩しさに、とっさに眼を細め顔を隠して後ろに跳ぶ。
腕を顔から少しずらすと、エンティルの顔。その距離約20cm。
ドスッ
神田の腹にエンティルの拳がめり込まれた。
「グッ・・・、ゲホッ・・・ゲホッ・・・!!」
膝をつき、苦しそうに顔を歪めて咳き込む神田。
神田が負けたことに―――、見ていた周りの団員達は驚きを隠せなかった。
「そろそろ本題に入ろう」
「・・・?」
「その男のクセに、長い黒髪を切らせろ」
冷たく薄い影かけた顔で神田を見下ろす。どこから出したのか、手にはハサミ。
神田はジワジワと嫌な汗が出てくるのが分った。
本能が危険だと叫んでいる。
(こいつ・・・眼がマジだッ!!ヤバイッ!!!)
体力の限界も知らず、全速力で逃げ出す神田。そりゃあもう必死で。
何故なら後ろからハサミを手にして追いかけて来る、獲物を捕らえた狩人のような妙な威圧の男がいるから―――。
捕まったら最後、絶対に切られる!!!!
「追いかけてくんじゃねぇーーー!!!」
「なら逃げるんじゃねぇ。観念して大人しく髪を切れい」
「・・・って、お前!ハサミがデカくなってねぇかっ!!?!?」
「気のせいだ」
「気のせいじゃねェッ!!あきらかにさっきのよりデケェだろ!!!」
エンティルが持っていたハサミは通常の物から、植木を切る大バサミになっていた。
シャキン、シャキン、と音をたてながら後を追って来る。
あのハサミなら、髪だけでなく首まで切りそうだ。
神田は自分の身と髪を守るため、必死に逃げるのだった。
神田がエンティルから逃げること、30分。
本気で必死に30分も逃げた為、体力は限界にきていた。
フラつきながら神田は壁に片手をつき、自分を支える。
「ったく、体力が無い奴だ。もう少し楽しませろよ」
「お・・・、お前が・・・体力、あり過ぎるんだろう・・・」
ゼェ・・・ゼェ・・・と息を切らす神田。
ちなみにエンティルは息一つ乱していない。
「エンティル!何やってるの?いつの間にかいなくなるから、心配したじゃない・・・」
この声は救いだった。
エンティルを制止する役目のリナリーだ。
「別に。ちょっと運動したかったところに、ちょうどよく挑発に乗りそうな短気なバカがいてな」
「テメェ・・・ッ!!」
「息切らしながら睨んでも迫力に欠けるぞ」
「うっ、うるせーっ!!」
肩で息をしながらエンティルを鋭く睨みつける神田だか、軽く言い返されてしまった。
エンティルは視線を合わせ、神田の手を取り大バサミを乗せた。
「コレは餞別だ。くれてやる」
「いらねーよ(怒)」
「その程度の実力なら、ケガが絶えないだろう」
体を少し傾けてエンティルは神田の耳元で囁いた。
「ケガの代償。そのために命を削るのは、お前には大き過ぎるんじゃないのか?」
「―――ッ!?」
神田は眼を見開き、胸にある怨の字に手を当てた。
背を向け歩き出すエンティル。
「おい!待て!!なんでお前が知ってる!!?」
「俺はお前達人間とは違う。気配でわかるんだよ」
エンティルは立ち止まり振り返ると、神田に尋ね返した。
「大き過ぎる代償を払っても、お前には果たすべきことでもあるのか?」
「・・・・・・・ああ」
「そうか。―――そうだな。そうなんだよな」
―――どんな代償を払っても果たしたい約束―――。
俺も、この魂を代償にしようとしているんだから。
ひとり納得し、エンティルは再び歩き出した。
「どこに行くの?」
エンティルの後を追いながらリナリーが訊いた。
「森に散歩」
「神田と、あれはなんの話?」
「果たすべき目的と、その決意への誓いの話さ」
去っていくエンティルの背を見つめる神田。
「・・・ちっ、何だあいつ・・・・・・」
髪を切られずに済んだが、結局彼が何をしたかったのか分らない。
だが完全におちょくられるほど、自分は弱いことを思い知らされた。
強くならなければ、そしてAKUMAを破壊し続けるのだ。あの人にあいまみえる、その日まで――――。
(とりあえず、今日は森で修練するのは止めとくか・・・・・・)
いつも森で修練をしている神田だが、エンティルが森に行くと言っていた。
これ以上はエンティルと関わりたくない・・・っというか、関わる体力の無い神田だった。
* * * *
――――と、まぁ・・・こんな具合でエンティルは大暴れだった。
あくまで本人にそんなつもりは無いのだか。
それぞれがエンティルが起こす騒動を回想して、苦笑するしかなかった。
「リナリーも大変さ・・・」
「う〜ん・・・。でも、なんか私なれちゃった」
哀れむように言うラビ。
それにリナリーは笑顔で返した。
「お!エンティルは森にいるぞ」
モニターを見てリーバーが、監視用のゴーレムから彼の居場所を特定した。
「それじゃあ私、行ってくるね」
「えぇ〜〜〜、もう行っちゃうのかいリナリ〜〜〜〜」
「ごめんね兄さん、心配だから・・・」
苦笑するとリナリーは小走りで科学班を離れた。
「確かに、アレをひとりにしないでほしいよなぁー」
「ああ、って言うか、リナリー勇気あるよな」
「リナリー最強だ」
「いや、真の最強はエンティルだろう」
その意見に、一同は深く頷いた。
彼が元人間の生体兵器でであることは、教団中が知っている。
しかし、その容姿の良さと強さは本物。誰もが彼のことを認めていた。
騒動ばかり起こし、人を逆上させるが、ソコに悪意は無い。言葉にはトゲがあるが、毒は無いのだ。
無表情で口調が淡々としているので、そう見えてしまうだけではない。
ホントに彼に悪気は無いのだ。―――悪い人ではない。
破天荒で支離滅裂。
だがそれはワガママから来ているのではなく、かなり思考がズレてる故なのである。
少し一緒にいれば、皆判ることだった。
その為エンティルに怒る者は居ても、どんな目に合わされても憎んだり恨んだりする者は居なかった。
こうして彼はその無敵っぷりから、たった三日で黒の教団最強(最凶)の名を手に入れた。
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