第9夜 ブックマンを継ぐ者




ラビが今いるのは店の裏口の外。

クシイムから無事逃げたとラビ。

一度控え室に戻りバンドとマフラーを持つと、に外で待っていてもほしいと言われ待っているのだ。

ちゃんと団服ジャケット着て、マフラーも巻いている。唯一髪を上げていたバンドは首に提げた常態。

しばらく待つと、裏口の扉が開く。

「・・・お待たせ」

出てきたのはだが・・・。

彼女を見てきょとんとするラビ。

長い漆黒の髪に紅い瞳に白い肌。
それは間違いなくだった。

しかし、茶色のロングスカートに白いシャツ。上に茶色のブレザーに赤いリボンタイ。茶色のブーツ。
胸元には銀の十字架のペンダント―――。

先程の格好と180度変わっている。

色っぽいセクシードレスから、控えめの清楚な服。
彼女の感じも、フォロモン系の美女から落ち着いた美女になっていた。

「幻滅した?」

少し申し訳なさそな顔をする。

「いんやー、これはコレでvでも何で着替えたん?ドレス姿の方が良かったのに」

変わらないの美しさに、自然と嬉しそうに笑顔になると残念そうな顔になる。

「アレは舞台衣装。残念だけど普段はあんなの着てません」

ラビに無邪気に笑って言う。

「・・・アレ?」

無邪気な笑顔は幼く、自分より年下に見える。

妖艶なも、落ち着いたも、―――大人の女性。20ではなくても19くらいだと思っていた。
だが今目の前にいるは無邪気な少女に見える。

って、トシいくつ?ちなみにオレ17」

「年齢不詳です」

「へ?」

そんなことを言われたら不思議に思うのが普通だろう。

本当は、私は人間じゃないから年を取らない。
精神も肉体も十代後半のまま。だいたい17、なんだけど・・・さすがにそんなコトは言えない・・・――。

クロスやアレンにも、良く変わら過ぎだと言われ不思議がられた。アレンはぐんぐん成長するのに。
その時は自分でも本当に不思議に思ってて、
「成長期が早かったんじゃないかな?案外アレンとそんなに年変わらなかったりして」なんて言ってた記憶がある。
―――それにクロスは複雑な顔をしていて、アレンは何か嬉しそうだった。

とラビは歩きながら話し始めた。

「記憶をね、失ってるんだ私。思い出せたのは曖昧なほんの少しの一部分だけ。だから年齢はわからないんだ。
だからご想像にお任せするよ。もしかしたら、ラビより年下かもね」

雰囲気で19〜16くらいに見える、不思議な少女。

自分のことを平常心で話しているようだが、そこに薄っすらと哀しみ色があることにラビは気づいた。

「ごめん・・・。何か、悪るいこと訊いたみたい・・・」

「そんなことないよ。私が私であることには過去が無くなっても、何の変わりもないんだから」

は無邪気に微笑む。

じっと・・・、その微笑を見た後、ラビが自分のことで口を開いた。

「オレさ、ブックマンって言うのの跡継ぎなんさ」

「ブックマン?」

「そう。んで、ラビって言うのは本当の名前じゃないんだよ。だからJrって呼ぶ奴もいるけど、
本当の名前はブックマンの弟子になる時に捨てたんさ」

「なぜ?」

「ブックマンって言うのは、裏歴史を記録する者。その存在も<裏>とされる。記憶を失ってるには悪いけど、
オレは自分から過去を捨てた。いつかラビって名もなくなって、ブックマンになる」

何でオレ、にこんなこと話してんだろ・・・。
協力してくれるって言うだけで教団の人間じゃない。裏歴史なんてものには何の係わりもないんだ。
・・・こんなコト話してちゃいけねぇのに。


『私が私であることには過去が無くなっても、何の変わりもないんだから』


―――ああ、そうだ。
の無邪気な微笑が眩しくて、言葉に強く惹かれたからだ―――。

「後悔してる?自分が選んだ道じゃないの?」

澄んだ瞳でが問う。

ブックマンになる。
自分で決めて選んだ道。後悔は無い。自分が望んだこと。いつかラビも捨てる、消される。

「後悔してるとかじゃないさ。ただ・・・なんとなく、話しちまっただけ」

ニコっと明るく笑ってみせる。

「それでも淋しい?不安になる?自らであっても、自分が世の中から消えることが」

ラビから笑みが消え、目の前の少女を凝視した。

ふたりは足を止めた。

「ラビと言う名での記録が消えても、記憶は消えない。
印象強い深い記憶かもしれない。些細な浅い記憶かもしれない。でもラビが、今ここにいた。それは事実」

ただ真っ直ぐにはラビを見る。

「記録から消えても、記憶がある。記憶がなくなっても、事実がある。全てを消し去ることなんて出来ない。
ラビはラビ。ブックマンになってもラビ」


――そう、キミは私とは違うんだから・・・・・。

ラビは思う。
どうしてこんなにも真っ直ぐに、相手を見ることが出来るのだろうか。

「名を存在を変えても、キミはキミ以外の何者にもなることは出来ない。そうでしょう?」

無邪気な少女は、神秘的な大人の女性なっていた。
麗しい顔で柔らかな表情。

歌を唄っている時のように透き通った紅い瞳に、吸い込まれそうだった。
いや、もう・・・、またも吸い込まれた。

真っ直ぐな瞳に。
その言葉に心奪われた。

「・・・ラビ」

気がつけばラビは、を抱きしめていた。

は瞳を閉じ、ラビの背に片手を回して、もう一方の手で彼の明るい髪を優しく撫でる。

選んだ道を進みなさい、未来も大切だけど今も大切にして。
明るくて、暖かくて優しくて、でも時にちゃんと理解して割り切ることの出来る、キミなら出来るから・・・」

彼女の温もりとイイ匂いを堪能しながらラビは思う。

(暖かくて優しいのはの方さ。―――スゴク安心する・・・)

出会って、まだ数時間。
どうして彼女はココまで自分のことを判ってくれているのだろうか。

それはきっと、彼女があの澄んだ瞳で、ちゃんと自分を見ていたからだろう。



「何?」

「ありがとう・・・」

「どういたしまして」

彼女はラビを見て、ラビと言う人物について感じた。・・・ただそれだけ。
彼女にとっては、ただそれだけことでしかないのだ。

夜道を照らす月明かりが、とても暖かかった。





第9夜 ブックマンを継ぐ者





と分れ、宿屋へと戻ったラビ。

案の定、先に帰っていたブックマンに問答無用で蹴り飛ばされた。
烈火のごとく怒られ正座させられ、ブックマンと分かれた後、何処で何をしていたのかを事細かに説明した。

と出会ったこと。
にストライクしたこと。(目をハートにして話してたらブックマンに殴られた)
不思議なことを言っていたバーで歌っている美女を見つけたこと。
それがだということ。
自信のこと。
・・・自分のことを、少しだけに話してしまったこと。(顔に唾が掛かり耳が痛いくらい怒鳴られた)
が明日、イノセンス捜索に協力してくれること。

探索部隊(ファインダー)は手掛かりが出てきたことに喜び、ブックマンはの詳細に興味を持ったようだった。





窓枠に肘を立てて頬杖し、相変わらす空に浮かんでいる満月をぼーっと眺め。

「はぁ〜〜〜〜」

深い深い溜息をつくラビ。

「小僧。何だ、溜息など吐きよって」

見かねたブックマンが声をかけた。

「恋煩いさぁ〜」

ブックマンは顔を顰める。

惚れっぽいラビの一目惚れは良くあること。
だが、今回はいつもとは違うようだ。

それをブックマンは心配した。

「その娘に入れ込むな、小僧。イノセンスが見つかれば、この街を出て教団に戻る。
奇怪に気づいていても適合者であるとは限らないのだ。ならば・・・、その娘とお前では住む世界が違いすぎる」

「んなこと、わかってるって」

真剣な顔で言うブックマンに、言い返すラビ。

「わかってっから困ってんだよ」

「なら諦めろ」

ラビの視線はぼーっと月に向けられたまま。

「無理」

その言葉にさらにブックマンは顔を顰める。

「手遅れ、もう無理さ」

オレは知っちまったんだから。

フォロモン系の美女にも、神秘的な美女にもなる、無邪気な少女。
そん中で共通して変わらない彼女。

―――知っちまったんだ。
あの言葉を。あの温もりを。あの絶対の安心感を――――。

完全に心を奪われちまったんだよ。

・・・・・・・・。





* * * *





翌日。

時刻的には昼間のはずなのだが、やはり変わらず夜のままだった。

ラビとの待ち合わせ場所にしていた、本来なら人で賑わう広場には、人っ子一人いない。

「相変わらず、ココには誰も来ないね」

理由は簡単。夜だからである。

街の人々は普段通りの夜の生活をしているのだ。用も無いのに夜外に出したりはしない。

買い物や遊びに行く者達は店のある所に行く為、石像とベンチが置いてあるだけの広い広場には誰も寄ってこなのだ。

「まぁ、これから暴れるには丁度いいけどね」

広場の中央にある石像を見ながら、は不適な笑みを浮かべた。

そんな時。

「伸伸伸のとこまで伸ーーーんっ!!」

聞き覚えのある声が聴こえてきた。

(嫌な予感が・・・!)

が声の聴こえてくる方を、恐れながらも勢い良く見る。

(凄い速さで何かが飛んでくるっ!!)

心の中では叫びを上げた。

<何か>とはもちろんラビであるが。

とっさに自分に突っ込んでくるラビを避ける。

ズドオォォォー

がいた場所の地面にラビは突っ込んだ。

「・・・・・・・・・・・」

ーーーー!!」

「ギャアーーーー!!」


ア然としていたら、砂煙の中からイキナリ出てきたラビに抱きつかれ、驚きのあまり声を上げてしまう。

ー!会いたかったさー!!に会いたくって飛んできたさー!!」

ラビはに頬擦りする。

「ラ、ラビ・・・」

って着痩せするタイプなんだなぁ。ドレスん時より胸の膨らみが小さく見えたけど、この感触v
やっぱデカ・・・」

バコ

「そういうこと考えてるなら、もう私に抱きつくな(怒)」

地面に殴り沈めたラビを冷ややかには見下ろした。

「申し訳ない嬢、不肖の弟子に代わり非礼を詫びよう」

飛んできたラビに続いて、落ち着いてやって来たのは目の周りが黒い老人だった。
後ろには白い服を着た4人の男。

この人がブックマン・・・。裏の歴史を記録する者。
胸にはローズクロスと呼ばれる十字架。エクソシストの証。

「ラビが弟子ってことは、アナタがブックマン?」

「さよう。嬢のことは小僧から聞いておる。協力を感謝する」

「いえいえ」

無邪気な笑顔で返す。
だが、ブックマンの目は鋭かった。

(警戒されてるなぁ〜)

さあ、これからどうなるかな?気まずいながらも、内心面白がっているだった。

「さて嬢。詳しく話を聞かせてもらおうか?」

「そのことなんだけど、この石像・・・」

広場の中央に置いてある石像に視線を向けるを見て、全員が石像を見る。

「うわっ、何だ?この石像・・・(汗)」

思わず声に出してしまうラビ。
他の者も呆れながら大きな疑問を持つ。

月を模っているのか星を模っているのか、もしくは両方を模って組み合わせているのか。
いまひとつ何を表現したいのか分らない、複雑で不細工な石像。
・・・これを芸術と言うのだろうか?

「石像は二週間前にここに置かれた。そして埋め込まれている水晶は、どこかの洞窟で掘り起こされた物なんだ。
その洞窟は昼でも真っ暗で、太陽の光は入らなかったらしいよ」

のセリフに、それぞれ顔を見合わせる。

二週間前と言ったら奇怪が起きた時期と重なる。
水晶が発見された場所は昼でも太陽が無い場所。奇怪の状況と同じだ。

ブックマンとラビ、探索部隊(ファインダー)は核心を持った。

「んじゃ、コレが・・・」

ラビは石像に埋め込まれている水晶を取る。
すると反転。

世界が眩しくなる。全員が目を細めた。

「太陽が昇った」

「やっぱコレだったのか」

探索部隊(ファインダー)が空を見ながら呟き、ラビが手に持った水晶をまじまじと見る。
そんな中、ブックマンの顔は険しいものだった。

「―――ラビ」

「ん?」

ラビの側に寄り、彼の袖を引っ張る

「あの人達・・・」

近づいて来る5人の男を指差す。

「あの人達がどうしたん・・・」

「ソレを渡せ!エクソシストォッ!!」

5人の男達が姿を変える。
レベル2のアクマの姿に。

「コレとは任せた!、危ないから下がってろよ!」

即座に回収したイノセンスとを探索部隊(ファインダー)に任せ、ブックマンと共に対アクマ武器を発動させる。

イノセンス発動!!

「ラビ!」

「大丈夫!大丈夫!はオレが必ず守ってみせるって!!」

探索部隊(ファインダー)に庇うように囲まれたが心配そうにラビに声をかける。
それにラビは明るく前向きな笑みを見せた。

「大槌小槌・・・満!」

対アクマ武器である槌を巨大化させアクマに攻撃する。

巻き込んでしまった。アクマとの戦いに。
そうなってしまったからには何がなんでも彼女は守る。

は何があっても守ってみせる、必ず。

ラビは強く心に誓い槌を振るう。

ブックマンとラビの攻撃により、5体のうち2体が破壊された。

(そろそろかな・・・)

その光景を見ながらは密かに不敵な笑みを浮かべていた。

「オラ!邪魔だエクソシスト!ソコどけッ!!」

「退けるわけねぇだろ!」

後ろにはが居るんだから。

だがイノセンスを真っ先に狙ってくるアクマ。
イノセンスを持っている探索部隊(ファインダー)を集中的に狙ってくる。そしてソコにはも居る。

「小僧!」

「――こんにゃろっ!」

アクマの攻撃から探索部隊(ファインダー)を庇いながら戦うのは不利だった。

「「「ソレ渡せ!」」」

3体のアクマが叫ぶ。

「やれるかよッ!」

攻撃しながら言い返すラビ。

「ならこっちに渡してもらうよ」

そう言ったのは、探索部隊(ファインダー)の手から水晶を素早く奪い、横に跳んで距離を取った――――。

・・・?」

だった。

コレハ、ドウイウコトダ?
ラビは理解が出来なかった。

「『明るい世界に<あの子>は戸惑っている。そして探してる、ひとりの人を・・・』これはイノセンスと適合者のことだよ」

彼女が言った単語に耳を疑う。
エクソシストのこと、ブックマンのことはに言ったが、<イノセンス>と<適合者>のことをラビは話していない。
今までの会話からも一言も<イノセンス>や<適合者>など言っていない。

・・・何で・・・?」

何でそんなこと知ってるんだ?

驚きを隠せなく動揺しているラビをよそに、は続けた。

「イノセンスを発見して一週間。エクソシストが来てくれると思って、様子を見ていて良かったよ。
ラビに会えた時は、本当に嬉しかった・・・」

「あー!お前知ってるぞぉー!お前だな!イノセンス持って一緒に来いッ!伯爵サマがお前を待ってるんだぞッ!!」

彼女のことに気がついた1体のアクマが声を上げる。
アクマのセリフに皆はを凝視した。

「ま、まさか・・・・・」

捜索部隊(ファインダー)が呟く。
皆の脳裏にひとつの最悪な予想が浮かんだ。

アクマが彼女の存在を知っている。しかも、千年伯爵が彼女を待っていると言う。
―――つまりは、千年伯爵と知り合い。
ブローカーということも考えられるが、ファインダーからイノセンスを奪い距離を取ったその動きは、只者ではない。

そうなると・・・・・・。

嬢、主はアクマか」

ブックマンの言葉で、考えたくも無い結論を意識させられた。
<信じられない><信じたくない>そんな表情でを見つめるラビ。

「・・・ウソだろ・・・・・?」

そう言って欲しい。
ラビはすがるような気持ちだった。

は不適な笑みを一同に向ける。

―――その笑みが、意味するのものは・・・・・・。








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