第7夜 太陽の昇らない街




どうも、私はです。

クロスとアレンとティムキャンピーと別れてすぐに、大変かつ重大なコトに気がづきました・・・・・。

――――私は、黒の教団の場所を知りません!!

ヨーロッパのどこかにあるというだけど、ドコにあるのかは知りません!

これに気づいた時、私はもの凄い自己嫌悪をしました。

なぜクロスに場所をちゃんと訊いて来なかったのだろう・・・!
私はバカだ!ドジだ!ホントバカだ!どーしようもないドジだ!

引き返そうともしましたが、それも出来ませんでした・・・。
アレンの様子を思い出して・・・。

まだ気絶しててくれれば良いけど(良くない)、もし目が覚めていたなら、きっとまた私との別れを拒んでくれるだろう。
アレンも、私も辛い・・・。
そして、きっとまたアレンはクロスに金槌で殴られる。アレは可哀想だ・・・。

アレンの(身)為にも、引き返せなかった。

こうなったら自力で黒の教団に辿り着くしかない!

さて、どうやって教団の場所を探すか・・・。
そうだ、イギリスにいるクロスのパトロンを尋ねよう!あの人なら教団の場所を知っているかもしれない!

期待の胸に、アクマを破壊しながら、まずはイギリスへと向かいました。

その途中、立ち寄ったフランスのある街でのことです。

私は奇怪に出会いました。
<奇怪>のある所には<イノセンス>がある。そして<イノセンス>がある所には・・・教団の<エクソシスト>が現れるハズ。

ならばと・・・、しばらくココで様子を見ることにしました。

どうやら私は・・・エクソシストに縁があるようです。

コレも運命?

―――この世界の神よ・・・。
アナタは私に何をさせたいんだ・・・?何をしろと言うんだ・・・?

―――――私は終止者。世界の終焉を止める者。

この世界の終焉を終止させたいのか?だから、私はココにいるのか?

でも残念だけど私は帰るよ・・・。

この世界は私の世界じゃない。私はこの世界の終止者じゃない。

私は私の世界を守らなければいけない。この世界は、この世界の者で守りなさい。

もちろん、この世界にいる間は出来るだけ協力はしよう・・・――。





第7夜 太陽の昇らない街





とあるフランスの街の前で、黒い馬車が止まった。
馬車の戸が開き中から出てきたのは、ふたりの男。

一人は目の周りが黒い老人。一人は眼帯をして赤毛をバンドで上げマフラーを巻いた少年、もしくは青年とも取れる。

ふたりの黒い服の胸には、ローズクロスと言われる十字架が描かれていた。

「着いたさ〜。んでも普通の街だぜ。ホントにココが<太陽の昇らない街>なんか?ふつーに太陽昇ってんじゃん」

長い間、馬車の中で座っていたので背伸びをしながら目の前の街を見て言う。

「タワケが。<奇怪>が起こるのは街に入ってからだ」

ブックマンと呼ばれる老人は自分の後継者である、一見のん気そうな少年・ラビに視線だけ向け、また前にある街に戻す。

「ゆくぞ小僧」

「へ〜い」

そしてふたりは街に足を踏み入れて、中に入った。

――瞬間、世界が反転する。

辺りは一瞬で暗くなり、空には先程まであった太陽の変わりに星々と、満月・・・。

「夜!?」

確かにたった今まで昼間だったのに、街に入ったとたん夜になってしまったのだ。

ラビは驚きの声を上げた。

「訊いていたとおりだな」

「ホントに夜になったさ・・・」

黒の教団・エクソシストのブックマンとラビが言い渡された任務は、あるフランスの街で起きている<奇怪>を調べ、
イノセンスを回収することだった。

起こっている<奇怪>とは・・・、昼間でも一歩でもその街に入ればになる。街はいつでも夜で昼間は無い。
――そして街の人間は誰一人としてその異変に気づいていないと言う。
あたかも最初から昼間など存在していないのが当たり前のように。

夜のままで朝が来ない街。

だから<太陽の昇らない街>と命名された。

調査の発端は街を訪れた人々の証言からだった。

奇怪は二週間ほど前から―――。
この街には普通に誰でも入ることが出来て、一度でも街に来たことがある人々は
町の人間同様に昼間が無いのに気づくかないのだが、初めて街を訪れた人々はそう言うことはなかった。
ちゃんと昼間が無いことに・・・、奇怪に気づいたのだ。

捜索部隊(ファインダー)が街を調べ、イノセンスはまだ見つけられないが可能性が非常に高いことから、
エクソシストのふたりが出向いて来ることになった。

汽車ではなく馬車で街に来たのは、街に入った時の変化をじっくり観察する為だ。

「んで、まずはどうすんだ?」

「まずは宿に行き、待機している探索部隊(ファインダー)と合流して現在状況を訊くぞ」

「了ー解」

ブックマンとラビは、探索部隊(ファインダー)がいる宿へと向かって歩き出した。





* * * *





「お待ちしてました、エクソシスト」

宿で待機していた4人の探索部隊(ファインダー)はブックマンとラビを見て頭を下げた。

宿の一室。

ソファーに座るとブックマンとラビは、テーブルに置かれていた資料に目を通した。

「まずは、現在までの状況の報告を訊こう」

ブックマンの言葉で隊長らしき男が説明をしだした。

「はい・・・。実は手掛かりと言うものが、殆どありません・・・」

申し訳なさそうな顔をする隊長。

「我々も必死にイノセンスらしき情報を得ようとしたのですが・・・、なんせ街の人間は二週間前からの異変に気づかず、
初めて街にきた人間は奇怪が起こる前の街の様子を知らず、以前の街と今の街との変化を比べられないもので・・・」

「んじゃどうすんだよ〜」

うんざりした様子でラビはソファーに寄りかかった。

「ただ・・・」

「ただ?」

「不思議なことを言っている女が居るそうなんです」

「ほう・・・」

興味を示すブックマン。
それを見て隊長は続けた。


『不安なんだ、急に変わった世界に。昼が消えたのは夜になって欲しいから。夜になって欲しいのは明るすぎるから。
明るい世界に<あの子>は戸惑っている。そして探してる、ひとりの人を・・・。ねぇ、この意味が判る?』


「――・・・そう問いかける女が居るそうです」

「まるで、この街の奇怪のことを言っているようにも聴こえるな・・・」

真剣にブックマンは、このセリフの問いかけを考える。

「そんじゃ『明るい世界に<あの子>は戸惑っている。そして探してる、ひとりの人を・・・』ってのは?」

「それはわからん。しかしその女、何か関係あるかもしれん。・・・その女とは?」

「はい。なんでも、どこかのバーで歌を唄っているかなりの美女だとか・・・」

「美女っ!?」

<美女>という単語に反応してラビが身を乗り出した。

「なんか関係あるさ!美女!!俺の勘がそー言ってる!その美女に会ってみようぜ!!つーか会いてぇー・・・」

「少し落ち着かんかっ!」

ドコ


ラビはブックマンによって蹴り飛ばされた。

「何すんだジジィ!」

「煩いわバァーカ!!」

「んだとパンダジジィv」


もはや名物になっているやり取りを、探索部隊(ファインダー)の4人は何も言えず止められず、見ているしかなかった。

「まずは女を捜し話を訊こう」

弟子との喧嘩を止めたブックマンの言葉に、その場が引き締まった。





* * * *





夜の賑わう繁華街。

バーで歌を唄っているいと言う<例の女>を捜す為に出向いたのだが、バーや酒場の数は多い。

3組に別れて女を捜すことになった。
4人の探索部隊が2組に別れ、もう1組はブックマンとラビだ。

アクマにイノセンスの存在を気づかれる前に、見つけ出さなくてはならないのだが・・・。

「ストライクさぁ〜」

ブックマンの額に青筋が浮かぶ。

先程から、この調子で目をハートにしているラビ。
繁華街で客引きをしている薄手のドレスを着た女性達に目を奪われてばかりいるのだ。

「いい加減にせんかっ!!」

バコ


またもブックマンは身軽にラビを蹴り飛ばす。

「何すんだよジジィ」

「何すんだ、じゃないわい!真剣に<例の女>を探せ!」

「探してんだろ。もしかしたら、あのネーチャン達の中にいるかも知んないしv」

再びラビは目をハートにさせて女性達を見る。

「まったく、手当たり次第に店を探さなくてはならんのだ。さっさとゆくぞ」

「わかってるって」

ふたりは近くにある店から調べ始めた。





「何で俺はダメなんさーー!」

「未成年だからです」

叫びを上げるラビに、店の制服を着た男が冷静に答えた。

大人の雰囲気の酒場やバーは大体が貴族の子息などではないかぎり、未成年者入店禁止。
よってラビは中に入れてもらえずにいた。

「俺、黒の教団の者なんだけど」

「黒の・・・」

教団はヴァチカンの名において、ありとあらゆる場所への入場が許可されている。

店員の目はラビの胸の十字架に注がれる。

「こやつは中に入れんでも良い」

ブックマンが店員にそう言うと、ラビの黒い眼帯で隠れていない方のタレ目が大きく開いた。

「何でだよジジィ!」

「どーせ女に目がいって、まともに使えなさそうだからだ。小僧は外で情報収集でもしておれ。
言っておくが、くれぐれも教団の名を使って他の店などに入るでないぞ」

バタン

それだけ言い残すと、ブックマンと店員は店の中に入り扉は閉じられた。

「――ぁんのっ、パンダジジィーーー!!」

ひとり残されたラビは、中に入ったブックマンに聴こえるように怒りの声を上げた。

すると。

バンっと開いた店の扉の中から、もの凄い勢いで飛んできた花瓶がラビの頭に命中し砕けた。
いきなりの衝撃でラビも後ろへと吹っ飛び、大きな音をたてて壁沿いに積み重ねていた木箱や樽を崩し倒れると、
店の扉が強く閉じられた。

「イテぇ〜、あのパンダジジィめ・・・」

頭からどくどく血が吹き出る。

当たり前だが、これだけ騒いでいれば目立つ。

周囲の人々は皆、ラビを見て、声を抑えて馬鹿にしているように笑っている。

冷たい反応。


その見物人の中で、ひとりの女だけは他の者とは違っていた。

「――――あの胸の十字架、ローズクロスは・・・」

ラビの黒い服の胸に描かれているものに気づく。

「・・・エクソシスト」

女の口元に笑みが浮かんでいた。


クスクスと笑い声が周囲から聴こえる。

(恥〜〜)

周りの目に、崩れた木箱や樽の中から頭を押さえ上半身を起こす。

(どうすんだよ。まだ寒いってのに・・・)

花瓶の中に入っていた水で、頭から肩までが濡れてしまった。
自分の状況に呆れてうなだれる。

「大丈夫?」

涼やかな声をかけられ、ラビは顔を上げた。

「これ、使って」

落ちる髪を片耳に掛けながら腰を曲げ、自分に淡い水色のハンカチを差し出し、優しく微笑んでいる妖艶な女性。

ラビは目を、これでもかと言うほど見開く。

艶やかで柔らかそうな長い漆黒の髪。
滑らかな白い肌。
宝石のような紅い瞳。
真っ赤な口紅が塗られた唇。
豊かな胸。
スリットから見える白い美脚。

バキュン バキュン バキューン

胸が3度も撃ち抜かれた。

ストライクっ!!!!

目がハートになるラビ。

「ホント・・・大丈夫?」
(なんか輝いてるいてる・・・)

キラキラやらハートやら周りに出して自分を見つめているラビに、女性は不思議そうに尋ねた。

「ハイっ!あ、俺ラビって言います!ハジメマシテv」

女性の手を取り、素早く立ち上がる。

「は、はぁ・・・。えっと、私は。よろしくね?」

「ハイvよろしくさvってかヨロシクしたいですv

「・・・ちょっと落ち着いて・・・・・」

何故か興奮気味のラビを、は何とか静めようとする。
彼が興奮してる理由が自分だとは分っていない。

の格好は――――。
太ももまで片脇にスリットが入った体のラインが良く分る、ノースリーブの黒と赤のドレス。
首から提げている銀の十字架のペンダント。
彼女はスタイルが良く、なんとも色っぽい。

「ほら、カゼひくよ」

ラビの濡れた顔を拭く

身近で彼女のいい匂いがした。

さんって優しい〜」

でいいよ。私もラビって呼んでいい?」

「もちろんさ!大歓迎v」

「ふふっ、キミっておもしろいね」

(笑ってる顔は断然キレイだな)

の笑顔を見てラビは不思議と、照れたように少し顔が赤くなった。

「このままじゃカゼひいちゃうね、ちゃんと拭かないと・・・。
―――そうだ、ここを少し行った所に私を雇ってくれてるお店があるんだ。そこでタオル貸すよ。
あと何か暖かい飲み物も。どう?」

一緒に行かないかと誘われる。
ラビにとっては願ったり叶ったりであるが。

「えっ!?そりゃあと少しでも一緒にいられんなら嬉しいけど、・・・俺が行ってもいいんか?」

「ええ、いいよ。それに・・・」

はラビの手を取る。

「私、キミのこと、もっと良く知りたいんだ」

優しい微笑とはまた別の、妖艶な笑みをは浮かべた。

「うひょう!!!vv」

この笑みは、ラビが先程キレイと思った笑みとは違く、とても色っぽいもの。

妖艶な笑みの本当の意味を知らず。
ラビの目は再びハートになり、喜んでに付いて行ったのだった。









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