第4夜 十字架を宿した少年






別れはいつかやって来る。

望まなくても、認めたくなくても。

そして別れがあるように、新たな出会いもある。
それは偶然か、必然か、奇跡か・・・・・。

偶然と必然で成り立つ奇跡。

奇跡も運命の一つだと思う。

だから私達は出会った。

偶然か、必然か、成り立つ奇跡か。

これも・・・運命・・・・・。

そう思ったのは私がこの子と出会ったから?
それとも記憶を失う前の私が元々そう感じていたのだろうか?

でも、別れても繋がっているものだって有る。

<絆>。

永遠は有る。

<想い>。



私は出会った。

夜の雪降る墓地で・・・私を知る者と―――。

私はこの子と出会った。





第4夜 十字架を宿した少年





気がつけば墓地に居た。

どうゆう風に、何処を通って此処まで来たのかは・・・判らない。

――――ただ・・・。

誰かが泣いている気がした。

それが今は近い気がする。

『アレン・・・お前を・・・、愛してるぞ・・・。壊してくれ』

「アクマの魂の声・・・!?」

声は近い。
はアクマの声がした方へ走る。

―――そしてが見たものは・・・・・。

バリ

「わああああああああああああああ!!!!!」

鈍く引き裂かれる音がした。
次には悲鳴とも言えるとてつもない絶叫。

「・・・・・・・・・・・・」

十字架が埋め込まれた大きな左手を持つ少年がアクマを破壊した。

アクマは少年の大切な人で・・・、少年は・・・アクマの破壊なんて望んでいなかったのだろう。
大切な人を手に掛けてしまったショックから、少年の髪は真っ白になっていた。

対アクマ武器と思われる左手は発動を解いた赤い手に戻る。
少年は魂の抜け殻のように、ただ・・・涙を流していた。

この時、は気づいた。

「―――キミだったんだね・・・、泣いていたのは・・・・・」

少年の側により、膝を着いて少年の顔を見ながらが言う。

「・・・ごめんね。もっと早く・・・、キミの痛みに・・・気づいてあげられなくて・・・・・・」

は優しく、少年の白くなった髪を撫でる。

私がもっと早く気づいてあげられたのなら、この子は・・・大切な人をアクマにしなったかもしれない・・・。

自分の能力の低さが恨めしかった。

白髪の少年は、焦点の定まらない目で自分の頭を優しく撫でる人物を見る。

少年の目に映ったのは・・・漆黒の長い髪に紅い瞳の、清楚な白いドレスを着た女性。

・・・女神・・・さま・・・・?

憂いのある優しい綺麗な微笑みを浮かべる、神秘でとても美しい女神だった。

の服装は昼間と同じ。
白いドレスなど着ていなかったが、少年には一瞬そう見えた。

「オヤ?vそこに居るのはではないですカ!?v」

背後から聞こえた声には勢い良く立ち上がり振り返る。

「お久しぶりですねvまさかこんなトコロで会うとは、思ってもいませんでしたヨv」

「・・・誰?私のコトを知っているの?」

自分のことを知っている見知らぬ男。
は不思議そうな視線を送った。

「我輩のコトを覚えていないのですカ?v」

「・・・・・・知らない」

ガーン――っと男はショックを受ける。
だがそれはには、わざとらしくにしか見えなかった。

「まあ仕方ないですネv貴女は記憶がないのですかラv」

「アナタは私のコトを知っているの?私の失くした記憶を知ってる?・・・っと言うか、アナタは何?何者?」

の細めた瞳は、視線は冷たいものになる。

目の前にいる男からは違和感のようなモノを感じる。
普通の人間が持たない・・・不吉な違和感。
悪寒。

―――でも・・・何か自分と似たモノも感じる。

「人間とは違う・・・存在?」

男はニヤッと笑い丁寧にお辞儀をして自己紹介をした。

「これは失礼v申し遅れました、我輩は千年伯爵v終焉のシナリオを演出する者でスv」

「――千年伯爵!?」

ペンダントの銀の十字架を片手で握り身構える。

アクマの製造者、世界を救う為にエクソシストが倒すべき最大の敵。
エクソシストである私が倒すべ最大の敵。

―――そして何故だか私を狙う者。

「そんなに警戒しないでくださイv我輩たちは仲間になるのでるかラv」

「仲間?何を言ってる?私はエクソシスト、アナタの敵だ」

「敵?v貴女がエクソシスト?v何を言っているのですカv女神様?v」

「女神?」

は美しい顔を顰める。

「アナタこそ、何バカなことを・・・人を女神だなんて・・・・」

「ウフフv記憶がないのですネ?v真の自分のこともわからなイv」

「・・・アナタは知っているの?私のコトを・・・?」

千年伯爵は嬉しそうに笑う。

「ええ知ってますヨv我輩の仲間になって下さるのなら教えて差し上げますヨv」

「冗談を言わないでよ」

冷たく笑う

「私はエクソシスト。アナタの敵。仲間になんかならない」

「・・・そうですカv残念ですネvでは今日のところは挨拶だけにしておきましょウv
ですが仲間にならなくても必ず、貴女が嫌がってもこちらに来て頂きまス!v
貴女は<終焉の鍵>なのですかラ!v


千年伯爵の言葉に、は動揺のような反応した。

「――――どういうこと?私が・・・終焉の鍵・・・?」

千年伯爵はなんて言った?終焉の鍵?私が?
終焉の鍵ってどういうこと?
まさか・・・私が世界を終焉させるとでも・・・?

「ウフフフv今は良くても、<来るべき時>には必ずこちらに来て頂きますヨ!!v
それまでの間、せいぜい頑張ってアクマを破壊し逃れて、我輩を楽しませて下さイ!!v

言い残すと千年伯爵はスゥっと消えていく。

「待て!千年伯爵!!それはどういうことっ!!?」

の疑問の声も虚しく、千年伯爵は闇の中へと完全に姿を消していった。

呆然と立ち尽くして千年伯爵が消えていった場所を見詰める。

・・・結局、自分は何者なんだろう。
新たなに知ってことは、―――千年伯爵が・・・自分を<終焉の鍵>だと言う・・・・・。

ギリッと唇を噛み締める。
唇に血が滲むが、焦るような腹立たしさに痛みは感じなかった。

・・・背後から頭の上に手が置かれた。

自分が良く知っている手。
自分には安心できる、優しく温かい手。

「夜は一人で出歩くなと言っただろう」

「・・・クロス」

振り向くと、ティムキャンピーを帽子の上に乗せたクロスがいつの間にかいた。

が異常な様子で仮住まいから出て行くのを見たティムキャンピーは、心配してクロスを呼びに行き、
そして此処まで連れて来たのだ。

「・・・まったく、何をやってる」

の顎を持ち上げ、親指で滲んだ血を彼女の唇に塗る。
ルージュでもつけたようにの唇は赤く染まる。

「こうすると色っぽいな。やはりお前はいい女だ」

今のは少女というより大人の女性。
色気がある大人の女性だった。

「愛人を口説く時みたいなことしないでよ」

「愛人なら舐め取っている」

「さわるな獣っ!!(怒)」

自分の顎を上げるクロスの手を叩き落す。
は唇を舐め、手の甲で血を拭った。

「・・・・で、何があった?」

問われ再びの表情は険しくなる。

「千年伯爵に会った。・・・私のことを、<終焉の鍵>だと・・・言っていた・・・・・」

クロスは少し目を見開き、すぐに険しい顔をした。

「・・・私は、何者なんだろう・・・?私は・・・本当に、<終焉の鍵>・・・なのかな・・・・?」

消えそうなほど弱弱しい声で・・・ポツリポツリとは言う。
憂いを浮かせて・・・。

「・・・今はそれだけではなんとも言えん。・・・訊くが、お前は世界を終焉させる気は無いんだろ?」

「当たり前でしょ!!!」

反発の声を上げる。

「ならその意志を強く持て。伯爵がなんと言おうと、アクマが向かってこようと断固立ち向かえ。
自信を持て、お前は紛れもなく適合者、エクソシスト。神の使徒だ」

キッパリと言い切られ、は安堵にも似た微かな笑みを見せた。

「・・・ありがとう、クロス」

その言って貰えるだけで心が軽くなる。

(これからも、胸を張ってエクソシストだと言える)

確かな自信が付いた。

「礼なら金か体で返してもらえればいいぞ」

「つけ上がるな」

そう冷たく言うは、クロスに対する感謝の気持ちを全面撤回したくなった。

「―――あ・・・そうだ・・・、アレン!

千年伯爵の登場で、つい取り残してしまった。

またはアレンの側に寄る。

アレンは先程と同じ状態。空っぽになって涙を流していた。

「こいつは?」

クロスも側まで来るとアレンを見下ろした。

「アレンだよ。千年伯爵に<悲劇>を利用され、大切な人をアクマにしてしまった。
そして不本意にもアクマを破壊してしまった少年。左目にはアクマの呪いが・・・、左腕は対アクマ武器」

それを訊いたクロスはアレンの前にしゃがむと興味深そうに観察する。
アレンの左目を・・・左腕を・・・。

「アレン、アクマを破壊したのは間違いではないよ。その眼で見ればわかるけど、アクマにされた魂は泣いているんだ」

は膝を付き、アレンに優しく言い訊かせる。

「アクマに内臓された魂に自由は無いよ。永遠に拘束され、伯爵の兵器になるんだ」

実際に魂が見えて、聴こえるには、それが良く判る。

「破壊するしか救う手は無い」

クロスも話しだす。

「生まれながらに対アクマ武器を宿した人間か・・・。奇数な運命だな」

何の反応も示さないアレン。

「お前もまた、神に取り憑かれた使徒のようだ」

この言葉は届いているのだろうか?

「エクソシストにならないか?」

尋ねられ、アレンは目の前の男を見た。
そして次に隣で、何処までも優しく綺麗な微笑みを自分に向けている女性を見る。

「キミは生きている。・・・それは今は、とても辛くて哀しいことかもしれない。
でもキミは生きているから、見つけないといけない、進むべき道を・・・。生きているのだから」

立ち上がり左手を差し伸べる。

「人はいつまでも、立ち止まったままではいられない。歩きだしなさい。
歩き出す為に、立ち上がることすら出ないなら手を貸そう」


の言葉で、アレンに衝撃が走る。

思い出した言葉。

マナ・・・・・・。

『立ち止まるな』『歩き続けろ』

それはかつて、自分の大切な人で・・・自分がアクマにして壊してしまった人・・・、
自分の養父マナ・ウォーカーがいつも言っていた言葉だった。

「選択はあくまでキミにある。選ぶのはキミだよ」

必要なら力も貸すし道を指し示す、しかしこういう場合は無理あり強制することはしない。
結局最後は本人に選ばせる。その人の人生なのだから。

「さぁ・・・キミはこの手を取る?」

ゆっくりと・・・自然に・・・。
アレンは、赤い左手で・・・その手を取った。

の手を握る赤い左腕が熱い。
触れている部分から侵食していく、熱さが・・・自分の奥深くまで・・・・。

今まで感じたことの無いものを、左手を通じて感じた。

優しく、暖かく、安心する、そして・・・不思議な感覚。

決して嫌なものではなかった。
むしろ・・・凄く心地良い。

コレはなんて言えばいいんだろ・・・。

そしてアレンはその手を借りて立ち上がった。

立ち止まらない為に、歩き続ける為に・・・・・。

雪が降る夜の墓地で、銀の十字架と赤い腕の十字架がほのかな希望の光を放っていた。



アレン・ウォーカーは運命の出逢いをした。

大切なものは失った。けれども新たな光を見つけた。

と言う光が・・・これからのアレンにとって、とても大きな光の存在になるのだった。

――――――そしてにとっても、アレンは救いとなる。










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