第19夜 表と偽り




  私のことを見て、私のことを<美人>だの<キレイ>だの<かわいい>だの言う。

  ――――みんな何も知らない。

  私と接して、私のことを<優しい>だの<強い>だの<神秘的>だの言う。

  ――――みんな何も知らないんだ。

  ―――――本当の私のこと・・・何も知らないんだ―――――

  本当の私はね、とても<弱く>て<臆病>で<めんどう>な存在なんだよ。

  自分の綺麗な部分を表に出して、醜い部分を裏に隠している。
  みんなが<強い>と表すモノで<弱さ>隠す。

  決して表には出さない。
  出してはイケナイ。

  常に強く。

  弱さを人に見せてはイケナイ。

  例え悟られても、見せてはイケナイ。

  <強い>自分を保つためにも――――。

  何も知らないみんなは、私に優しくしてくれて、私を愛してくれる。
  でもそれは本当の私を知らないから、<綺麗な部分>の私に対してだけ。

  それでもいい。そうでなくてはいけない。

  だって、私は<終始者>だから。 
  常に強くなくてはイケナイんだ。

  ――――だから私は、偽りであり続ける。

  好かれるように。愛されるように。嫌われないように。
  みんなが離れていかないように。

  私の<綺麗な部分>も<醜い部分>も、まとめて愛してくれるのは<彼>だけ。
  だから私が真に信じれるのも、真に愛せるものアナタだけ。

  ――――そうでしょう?まだ名も思い出せないお義兄ちゃん・・・―――――



  

第19夜 表と偽り





  科学班。

  彼女が教団に来てから、もはや日常化している風景をリナリーは半分呆れているかのように見ていた。

  書類を整理していく
  その表情は少し不機嫌だ。

  ・・・いや、不機嫌と言うより不愉快そうだ。

  原因は彼女の背後にピッタリとくっ付いている・・・。
  ―――ラビ。

  後ろからのウエストに手を回し、ラビはに抱き付いているのだ。

  「―――あのさ、ラビ・・・・・」

  「ん?なんさ?」

  「離れて。仕事しづらい。邪魔」

  「イヤさ。
   せっかく任務から帰ってきて会えたんだから、感触を堪能しないワケにはいかないっしょ!」

  「なに堪能って・・・」

  「あ〜〜v抱き心地サイコ〜さ〜〜vv」

  「放せセクハラ野郎(怒)」

  幸せそうにに頬擦りするラビ。
  だが当の本人には怒りマークが浮き出ていた。

  (きっと、この辺でラビを殴るわね・・・)

  リナリーは毎度の行動を観察して思う。

  ―――そうでなければ、第三者の妨害が・・・・・。

  「ラビィーーーー!!ボクのちゃんから離れるんだーーーーー!!!!」

  マシンガンを構えたコムイ登場。

  二つ目のリナリーの予想が的中した。

  はコムイのじゃないさ!オレのさ!!」

  「ちゃんがラビの!?そんなの認めないぞ!!」

  「私はどっちのモノでもない(怒)」


  ラビとコムイの睨み合いが始まる。

  その隙にはラビの腕から逃れ、教団内放送のマイクを手に取った。

  『えー、ブックマンブックマン、申し訳ありませんが至急科学班にいるラビを引き取りに来てください。
  ハッキリ言って迷惑で仕事になりません

  !?(汗)」

  ラビは焦る。
  ブックマンが来たら間違いなく頭をザシュっと殴られ(切り裂かれ)、引きずられてから引き離されてしまうだろう。

  ・・・だが――――。

  「ラビ!!テメェまたか!!?」

  「あ、ユウおかえり」

  荒々しく乱暴にやって来た神田。
  放送を聞いて来たのはブックマンではなく神田だった。

  「チッ!目を放すといつもいつも!!」

  「ユウだって、オレがいない時ににちょっかい出すクセに!」

  「なんだってッ!?神田君もちゃんにセクハラを!!?」

  「誰がするか!!俺は鍛練に付き合せてるだけだ!」
 
  でもその間は神田がを独占できることになる。
  は純粋に鍛練だと持っているが、彼女以外の者にはそんな神田の考えはお見通しだ。

  ギャーギャーギャー喚く3人。

  さすがにリナリーが止めようとした時、がキレた。

  「黙れッ!!!!」

  を怒らせた。背後には怒りのオーラが漂っている。
  恐ろしさから顔を青くさせ3人は黙った・・・・・。

  「・・・コムイ」

  「はっ、はいっ!」

  「さっきコムイが散らばした書類・・・、私が整理したものなんだけど・・・・・」

  低い声で呼ばれ、コムイは身を震わせた。
  嵐の前の静けさ。そして雷は落ちる。

  「―――今すぐ整理し直しなさい!!ついでに今日のノルマはいつもの2倍ッ!!」

  「はいぃーっ!」

  「ラビと神田はさっさと任務の報告ッ!!」

  「ハイさ・・・」

  「ああ・・・」

  「それでは速やか行動っ!!」

  見事な指揮により、3人はそれぞれの行動を開始した。

  「疲れる・・・・・」

  ぐったりと項垂れる

  今まで経緯を黙って見守っていたリナリーは、そんなを見て苦笑した。

  ―――そう言えば私、女の子同士なのにとふたりで話したことないなぁ・・・。

  は誰からも好かれている。いつも必ず誰か彼女の側にいる。

  最初が教団に来た時は嬉しかった。
  女性の少ない黒の教団に、自分と同い年ぐらいの少女が来たのだ。
  女友達が出来ると喜んだ。

  だが実際は、まだ親密に話したことが無い。

  リナリーとしては仲間以上に、早く女友達としてと仲良くなりたかった。

  「

  「ん?何?リナリー」

  「今日はもう仕事終わらせたら?
   はがんばりすぎ。女の子なんだし、無理しちゃダメよ?」

  「んーでも、まだたくさん仕事が・・・」

  「、今日は終わりにしていいぞ。
   ほんとがんばってるからな、今日はもう休めよ」

  リーバーがそう言うと、嬉しそうに笑みを浮かべたのは・・・ではなくリナリーだった。
  リナリーはの腕にしがみ付くように抱きつく。

  「だったら!夕食まだでしょう?一緒に食べよう!」

  「うん、別にいいけど・・・」

  「そのあとは、一緒にお風呂ね!」

  「えっ!?」

  「それから夜は私の部屋に泊まって!おしゃべりしながら一緒に寝ましょう!
   あ、の部屋でもいいね」

  「あの・・・リナリー・・・・・?」

  「今日は女の子同士、交流を深めましょうv」

  こうしてリナリーの笑顔と女の子パワーに負けたは、半強制的にお泊りまですることになった。





  〜食事〜

  「は食事する時、いつもフルーツ頼んでるね。好きなの?」

  「うん!大好物!」

  「でも三食いつもデザートであるよ」

  「フルーツなら毎度食べたいんだもん」

  「じゃあ今度ジェリーに教えてもらって、一緒にフルーツタルト作ろうよ!」

  「うん!でもタルトは難しそう・・・」

  「大丈夫よ。ふたりで作るんだもの」

  「うん」





  〜お風呂〜

  (お風呂はひとりで入るのが好きだがら、いつも自室にある小さなバスルーム使ってるのに・・・。
   リナリーに連れられて大浴場に入ってしまった・・・・・)

  「うわあ・・・髪纏め上げた、色っぽい・・・・・」

  「そ、そうかなぁ・・・」

  「それに、肌が白くてすごーくキレイ。ツルツル〜〜v」

  「ちょっ、ちょっとリナリー!」

  「って着痩せするのね。胸も大きい、いいなぁ〜」

  「リナリーだって・・・!」





  〜リナリーの部屋にお泊り〜

  「リナリーの部屋は女の子らしい部屋だね」

  「そう?も、もっと私物を置けばいいのよ。ここがの家(ホーム)なんだから」

  「そうだね・・・」

  「ねえには好きな人とかいないの?」

  (キターーーーー!!女の子が好きうえに、私の興味無い話題ぃーーーーー!!)

  「ねえ?」

  「好きな人なら、みんな好きだよ。でも恋愛感情として好きな人はいないよ」

  「じゃあラビのことはどう思ってるの?よく一緒いるでしょ?」

  「そうだね・・・。ラビといると気が楽かな、一番一緒にいて安心できる」
   (似たもの同士なところあるし・・・)

  「神田は?最近よく鍛練に誘われてるよね、いつもひとりなのに」

  「神田は、己の信念で戦ってる。その意味では頼りなるよ」

  「じゃあコムイ兄さん!」
 
  「優しくて、必要なら厳しい判断をくだす。普段アレなところあるけど、いい室長だと思う」

  「私は・・・?」

  「え・・・リナリーは・・・、女同士で話しやすい仲間・・・――――」

  「友達」

  「え?」

  「私は、と友達がいいわ。
   ――――私達、もう友達よね?一緒にゴハン食べて、一緒にお風呂は入って、一緒のベットで寝るんだもの」

  「・・・そうだね・・・・・」

  「うん!私達、友達よ!うれしい!私、ずっとが羨ましかったんだ」

  「・・・羨ましい?私が?」

  「だって、キレイでかわいくて優秀で、みんなから愛されて、羨ましいわ」

  「・・・・・・・・・・・」





  同じベット、自分の隣で眠るリナリーを、は切なげに見詰めた。

  ―――ごめんね・・・。

  心の中では謝った。

  ―――私はね、ほんとはリナリーと友達になる資格なんて無い―――

  「好きな人か・・・・」

  隣のリナリーを起こさない小さな声で呟く。

  ―――私が恋愛なんてできるハズが無い。恋愛自体わからないし。

  好きな人なんて、私にできるハズが無い。

  ごめんね、リナリー。

  みんなが見ている私は偽り。

  私、本当はとても<弱く>て<臆病>で<めんどう>なんだ。

  怖いんだ。

  信じるのが、愛するのが・・・・・。
  怖くて怖くて、不安で不安で仕方がない。

  だから本当の私は、真に誰も信じることが出来ない。真に誰も愛することが出来ない―――


  どこか、『しょうがない』と諦めて、薄情になっているところがある。

  は、自分が誰かに信じてもらい愛されようとしてるのは、
  真に誰かを信じることや愛することができない裏返しなのだと思い込んでいた。

  所詮、自分は偽りであり続ける偽善者なのだと。

  「・・・私は、リナリーが羨ましいよ」

  ―――表も裏も無く、自然体で誰からも愛されてるリナリー。
  
  私は違う。
  この姿も、才能も、愛されるのも、すべては《終止者》として必要だから。
  少しでも有利に役目を果たす為に与えられた手段にすぎない―――

  偽りの中で得た愛情など、偽りの愛にすぎない

  外見も内面もリナリーほど良い人は居ないとは深く思った。

  リナリーが羨ましい。憧れてしまう。
  だって自分は素直に自然体では居られないのだ。  

  ―――私は、本当は怖くて、不安で堪らない、
  失うのが―――、裏切られるのが―――。

  絶対的に信頼できる、裏切らない存在。

  ―――私には彼だけが、身も心も、すべてをさらけ出し、委ねることができる。

  「早く逢いたいよ、お兄ちゃん・・・・・」

  心のすべてをさらけ出して、身を委ねることができるのは――――――

  はゆっくり目を閉じると、落ち着かない眠りへとついた。









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