第18夜 命の残量を使う者



ぜぇーはーーぜぇーはーー

「ど・・・どうしたの?ふたりとも・・・・・」

息を荒くして司令室に入って来た、神田と
コムイは驚きとも圧倒されたかのような表情でふたりを見つめた。

「この女がっ・・・意地っ張り・・・・・」

「・・・それはっ、そっちでしょう・・・?」

キッと神田とは互いに睨み合う。

「と、とにかくふたりとも、落ち着いて」

コムイに静められ、呼吸を整える。
神田はソファーにドカッと座り、はコムイのデスクに書類を置いた。

ちゃん、これ神田くんに」

言われたとおりは今回の任務の資料を神田に手渡す。

「今回は任務は、イノセンスの回収とアクマの破壊」

コムイが任務の説明をしだすとは黙って司令室を出て言った。





「詳しい説明は以上。あとは汽車の中で資料を見てね」

「わかった」

説明を聞き終えた神田は資料と六幻を手に立ち上がった。

「あ、それはそうと・・・」

「?」

何かを言おうとするコムイに神田が振り返る。

「神田くん、ずいぶんとちゃんと仲いいんだね。一緒に司令室に来ちゃってさ」

どこかトゲのある言い方をしてくる。

「なっ・・・!誰があんな女なんかと・・・――」

「まさかっ!?ボクのかわいい妹であるちゃんに、手は出してないだろうね!?」


・・・・・・・・妹?

神田は顔を青くして後ろによろめく。

「あ・・・あいつ・・・、お前の・・・妹なのか?」

「そうだよ!リナリーと同じ、ちゃんはボクのかわいい妹でーーーすv
・・・・・って神田くん?」

最後までコムイの声が聞こえたのか、どうかは分らないが。

(妹?が?・・・コムイの妹?ま、まさか・・・ウソだろ・・・・・?)

頭を押さえてフラフラと司令室を神田は出て行った。





第18夜 命の残量を使う者





今回の任務は早く終った。
結局イノセンスは無く、アクマの破壊のみ。

教団に着いた時には夜になっていた。

「神田さん!傷の手当てを・・・!!」

「必要ない。もうふさがりかけてる」

駆け寄ってきた医療班を振り切って部屋に戻ろうとする。
だが、医療班も後をついて行く。

「神田さん!!待ってください!」

それでも神田は止まらず、足を速める。
観念したように医療班が足を止め、溜息を吐いた。

「神田が、どうかした?」

「あ!さん!」

通りがかりに騒ぎを聞いたが後を追って来て、医療班に話しを訊いた。

「それが聞いてくださいよ!神田さんったら、ケガしてるのに治療を拒否するんです」

「神田が?・・・・・わかった、無理やりでも私が医療班に連れて行くから!」

断言して、は急いで神田の後を追い駆けた。





「神田!」

耳に残る澄んだ声。の声だ。
立ち止まりそうになった神田だが、今の自分の姿を思い出す。

アクマの攻撃でケガをし、血塗れている。

わざと声を無視して神田は先を急いだ。

「神田!待ってよ!」

は神田の腕を掴む。

しかしその瞬間、神田に触れた瞬間、は神田の異変に気づきバッと手を離してしまった。
その行動に不思議に思った神田がを見れば、彼女は驚いたように神田を見ていた。

「オイ・・・・・」

「神田・・・命・・・・減ってる・・・・・?」

「――――ッ!!?」

神田は眼を見開く。

(なんでっ・・・!?)

動揺しながらも今度は自分がの腕を掴むと、彼女を連れて歩き出そうとした。

だが、は動こうとしない。

「・・・・・・・・・」

「来い・・・・・」

「・・・その前に、医療班でケガの治療して」

「ふさがりかけてる。必要な・・・」

「治療しないなら行かない。―――お願いだから・・・・・」

哀しそうなの顔。

胸が痛んだ。
なんだか、自分が悪いことをしたかのような罪悪感に駆られた。

「ちっ・・・、わかった。ただし、そのあと付き合えよ」

「うん・・・・・」

まるでを逃がさない、っとでも言うように神田は彼女の手を掴んだまま医療班に早足で歩き出した。

今度はも大人しく神田について行く。

歩いている間、ふたりとも無言だった。





* * * *





医療班の団員達は、驚きの目でふたりは見られていた。

まず第一に、神田が自分から医療班に手当てを受けに来た。
しかも何故かを連れて。

第二に、手当てを受けている間も神田はの腕を離さない。

第三に、様子を伺うように神田はチラチラとを見るが、彼女は哀しそうに顔を伏せたままだ。

何がなんだか分らない。
分るのは、ふたりの間に妙に気まずい空気が流れていること・・・。

冷静を装っていたが、医療班は内心パニックを起こしていたのだった。

ふたりが医療班を去ったあと、『神田がに告白してフラれた』とか『それでもしつこく、逃がすつもりは無いでいる』とか、勝手な話が作られ大騒ぎになっていた。





神田とは教団の森へと移動した。

ここなら人がいないため誰にも邪魔されないと思ったからだ。

「・・・で、なんでおまえが知ってる」

最初に沈黙を破ったのは神田だった。

「―――感じた」

「感じた?」

「私のことは知ってる?私の力、私のイノセンス、私が教団にいる理由・・・」

「ああ・・・」

「なら話は早いね。
―――神田に触れた時、任務に行く前と行った後で変化を感じた。
・・・命が減っているのに・・・・・」

「それもおまえの、力とかか?」

「多分・・・」

そこまで会話すると、ふたりはまた黙った。

は夜空の月を見詰め、神田はそんな彼女を見詰めていた。

「・・・・・何も聞かないんだな・・・」

「え?」

「俺のこと・・・」

ここまで気づいたなら、どうして何も聞かないのか。命が減っていることについて・・・・・。

「だって、みんな知らないんでしょう?みんなに言ってないんでしょう?
誰だって人には言えないことぐらいあるよ。神田が言わないのに、無理に聞こうとは思わない」

・・・・・・」

「でも、私は知ってしまった。
神田が言ってたとおりキズはふさがりかけてたことから、だいたい予想できる。
アナタは自分の命を削ることで、ケガの回復を早めてるんだね」

「・・・・・・・・・」

「その沈黙は肯定だね?
その時は良くても、あとあと辛くなる・・・悲しい体質・・・・・。
それでも望んだの?それでも、神田は戦いたいの?」

「俺は・・・俺はあの人を見つけるまで死ぬワケには・・・・・・」

「ストップ!」

何故だか自然と口から出てくる言葉。
それをが止めた。

「言わなくていいよ・・・・・」

優しい眼差し、優しい言葉。

「そんなに辛そうにしてまで・・・、言わなくていいよ・・・・・」

自分は今、そんなに辛そうな顔をしているのだろうか。

そんなことを思っていたら、が自分の胸にそっと手を当てていることに神田は気づいた。
刺青のある胸に――――。

「心地いい音・・・・・。生きてる音・・・・・」

は顔を上げると、紅い瞳が神田の目を捉える。

「神田の戦いは、アクマを破壊するだけじゃないよ。
生きることも神田には戦いだよ」


―――優しく、強く、凛々しい瞳が自分を諭す。

「戦って生きて、生きて戦って。アナタの望みが叶うまで。
だから・・・――――」


その言葉が神田の中に駆け巡った。

「ケガをして、命の残量を使わないで・・・・・」

哀しそうに微笑む
その瞬間、神田はを抱きしめた。

驚くだが、抱きしめた本人でもある神田も自らの行動に驚いた。

だがもう止められない。
溢れだす『好き』だと言う気持ち。

「死なない」

耳元で聞こえた神田の声。

「俺は死なない。もう一つ、望むモノが出来たからな」

体を離し、を見詰めた。

・・・・・」

愛しい名を囁いて、彼女の髪に触れる。

「神田・・・?」

「下の名・・・・」

「え?」

「おまえは、下の名で呼んでいい」

神田は顔を、の顔にゆっくりと近づけた。

そして・・・――――。

「ユウっ!勝負しよう!!」

「はあ!?」


もう少し、っというトコロでの突然のの発言。

「ユウ、私のこと『気に入らない』って言ったでしょう?
今ついでだから、それを撤回させて認めさせてやる!だから勝負しよう!」

神田は青筋が浮かばせ、怒りで身を震わせ出す。
はと言えば、そんな彼の様子に「?」を浮かべていた。

「何がなんで『ついで』だッ!?どうしたらこの状況でそんな発想ができる!!?
ってか雰囲気、読めよッ!!!!」

「はっ、はいっ!?」


眼を吊り上げて怒鳴る神田。
は今ひとつ分ってないようだが、神田の怒りの迫力に圧倒されていた。

「ったく!オラ、イノセンスかまえろよ。勝負するんだろ?」

「・・・いいの?」

「俺も、おまえとは手合わせしてみたかった」

神田が六幻をかまえる。
もイノセンスを発動させ、デスサイズ(死神鎌)をかまえた。

ふたりの間を、ザァーと風が吹いたのを合図に勝負は始まった。



と戦っている最中に神田は思った。

は強い。
そしてやはり、戦う彼女は美しい。

―――認めてやるよ――――


『気に入らない』なんてウソだ。
気に入らなかったのは、に抱いた自分の気持ち。

でも・・・・・。

認めよう。この気持ちを、この想いを。

自分はあの人を見つけるために、この命を使う。
だが死なない。

残った命を、彼女を愛することに使いたい。
だから死なない。

神田は、新たな決意と望みを得た。





* * * *





翌日。

「ユウーーーーーーッ!!!!
を無理やり襲ったって、どういうことさーーーーー!?!!」

「神田くん!!覚悟は出来てるんだろうねッ!!?」

「ハっ!んなの早いもん勝ちだろ。
だいたいコムイ!本人から聞いたぞ!はお前の妹なんかじゃ無いだろ!!」

がぁぁああ!!がユウに穢されたぁああぁあぁぁぁあ!!!!(号泣)」

ちゃんはボクの妹だーーーいッ!!神田くん覚悟ぉおおおおお!!!!(激怒)」


「・・・・・・何?この騒ぎは」

「あっ!っv
今からでも遅くないさ!!オレと真の愛の儀式をーーーー!!!!」

「何をワケがわから・・・ギャアーーーーー!!!!

「ラビィーーーー!!!キミもかぁぁああぁ!?!!」

に触るんじゃねェ!!!テメェら、ふたりまとめて叩き斬る!!!!」

「落ち着けお前らッ!!暴れるなーーーーーー!!!!」


医療班の勝手な作り話が大げさに広がり大騒動が起きた。
しかも、神田が否定しないため余計にだ。

コムイは泣き叫びながらマシンガンを構えて乱射しそうな勢い―――。
ラビは姿を現したを押し倒そうとするし―――。
神田は六幻を抜刀―――。

止めようとするリーバーの声が、虚しく響いた。









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