第12夜 新入




やっとここまで来た。

アナタに逢いに来た。

あの日見た、あの夢が、私の懐かしい過去。

私はココ、黒の教団に過去を・・・アナタを探しに来た。

過去を知りたい・・・っと言うのもあるけど、一番の理由はアナタに逢いたかったから。

・・・・・・私の特別な人―――。

逢いたい。逢いたい。アナタに逢いたい。
その一心で、私はココまで来たのだから。

ついに、この日が来た。

アナタに逢う日が・・・来たんだよね・・・・・・?





第12夜 新入





黒の教団の中に入ると門は音をたてて閉じられた。

「そんじゃ、コムイの所に案内するさ〜」

「コムイ?」

は首を傾げた。

(そう言えば、そんな名前の幹部が居るってクロスが言ってたな・・・)

イイ奴だが変人だから気をつけろ、とも言っていたのも思い出す
その時はクロスには敵わないと思っていたが。

「あーもー!その、きょっとんとした顔!仕草!ってば、かわいいィ〜〜v」

がばっとラビが抱き付いてきた。
人目が有るのでは慌てて抵抗する。

「ラビ!みんな見てる!」

「いーの!見せつけてんの!」

「良かない!!」

柱の所々に2人組みで、腰に剣を提げて旗を持った団員が立っている。
視線を感じるし、ヒソヒソとなんか言われてるが分った。

「新入りだ・・・」

「なんだ、まだ十代後半ぐらいじゃねェか」

「美人だが可愛いな」

そんな中を、じゃれ合いを止めたラビと共に歩き出す。

「でもエクソシストなんだろ?」

「大丈夫かよ、あんな綺麗な女で・・・」

「まあ、イノセンスに性別は関係ないからな」





『この者が・・・千年伯爵に狙われる者・・・、か・・・』

何処かの部屋で、教団内をラビに続いて歩いているの映像を、フードを被った5人が興味心身で見ていた。





「ここは食堂」



「このフロアは修練場。3階層に渡ってあるさ」



「談話室」



「ここが療養所で」



「んで、書室さ!」

「うわぁ・・・、すごい!本がいっぱい!」

ラビに案内された書室の本に、は感嘆の声を漏らし目を輝かせた。

「世界中の本が集まってっからな。オレも良くここに来るんだよ。は本好き?」

「好き!本を読んでると時間を忘れて夢中になるんだ!」

「あ、それオレも。気づいたら日付が変わってた時もあった」

「私も良くある!ここに有る本読むの、楽しみだなぁ〜」

ラビとの共通点に、無邪気に楽しそうには笑う。
あまりに微笑ましく、ラビは顔が緩んで穏やかになって彼女を見ていた。

「あと各自の部屋もあるんさ」

「部屋!?自室も与えられるの?」

「そうさ〜。そんなに嬉しいんか?」

「うん、嬉しい。そういうこと、思いもしなかったから」

クロスとの生活ではお金がないので一人部屋なんてないし、気にもしていなかった。
何より・・・・・・。

―――独り方がいい。今の私は独りだから。

「ん?」

「あっ、なんでもない。次案内して!」

笑顔で急かす
一瞬の顔が淋しそうだった気がしたのだが。

ラビは案内を続けた。



コムイと言う人の所に行くまで、ラビとはいろいろ話しながら歩いていた。

「エクソシストは皆、ここから任務へ向かうんさ。だから本部のことを<ホーム>って呼ぶヤツもいるんだよ。
まぁ出て行ったきり、わざと帰ってこない人も中にはいるけどな」

(クロスです)

そんな不真面目な奴は絶対クロスだと思った。
呆れて思わず顔が引き攣る。

(・・・・・・・・。ホームか・・・・・・)

はその響きに、言葉の温かさに、言いようのない淋しさと哀しさを感じた。

ホーム―――家・・・。

今まで自分には、そんなものは無かった。そしてこれからも無いだろう。
ここは自分にとって<ホーム>にはならない。ここは今まで通り仮住まい程度にしかならないのだ。
彼がココに居るのなら話しは別だが。

憧れはしても羨ましいとは思ったことは無い。

―――私の戻るべき場所は、彼の元なのだから。

(本当に・・・ここに居るんだよね・・・?)

だんだんと期待が不安になってきた。

本当に彼は此処にいるのだろうか。居るのなら此処に着たら真っ先に見つけてくれる。
そう思っていた。なんとなく、そうなんだろうと感じていた。

だが彼は現れない。

もしかしたら彼は此処に居ないのかもしれない。
期待が不安になっていった。

「あ!ここの階はどんな部屋があるの?」

「ここは、いいんさ」

「なんで?」

「世の中には、知らない方が幸せなコトがたくさんあるんだよ。
そして・・・踏み込んだら二度と戻れないトコも・・・・・」


「・・・ごめん。早く行こう」

ラビのセリフから不吉なものを感じ取ったは、これ以上深く追求しないことにした。

ここは、コムイ室長のプライベートな実験室である。


見てけばいいのに〜〜。 BYコムイ。



「ラビ!」

可愛らしい声がした。

自分達の方に駆け寄って来る、声の同様に可愛い少女。

「あ、リナリー。どうしたんさ?」

「どうしたもないわよ。あんまり来るのが遅いから、心配になって迎えに来たの」

「悪りぃ、悪りぃ。に教団内を案内してたんよ」

「そう、それならいいけど。あっ!ラビ、おかえりなさい」

笑みを浮かべて<おかえり>と言うリナリー。
その笑みは可憐で、かわいい娘だなぁ〜とは思った。

「タダイマさ〜。んでも心配とか、それならとかって、どーゆー意味なん?」

「だってこんなに・・・・・・」

リナリーはを見る。
目が合い、にこっとは笑顔で返した。

(キレイ・・・)

の美しい笑みに、頬を染めるリナリー。
その美貌は、同姓でも思わず見惚れてしまう。

「ストライク!」

「きゃあっ」

「ラビ!?」

イキナリ抱きついてきたラビに小さな悲鳴をが上げる。
リナリーも驚き諌めた。

美人さ〜〜〜。今のモロストライク!!」

自分の周りにハートを飛ばして、目もハートにしているラビ。
手を背中と腰に回して頬擦りしようとするラビを、が全力で押し離そうとする。

「お前は離れろぉー!いい加減にしないと殴るよ!!」

「痛いのはイヤだけど、になら少しぐらいOKさ!」

「じゃあ一度死ねぇぇぇぇ!」

の強烈なアッパーがラビにヒットした。美しく弧を描いてラビが床に落ちる。

「はぁ・・・、無駄な体力使わせないでよ・・・・・」

一気に疲れたような気がした。

「あの、ほんとにごめんなさい」

申し訳なさそうにリナリーが誤ってきたので、は慌てた。

「そんな!キミが謝ることないよ。悪いのはコレだから

床に倒れるラビを力強く指差す。

・・・今の一撃、かなり効いた・・・。復活するのに時間掛かりそう・・・」

「そう、良かったね」

とりあえず、先に進めないのでラビのことは冷たく流すことにした。

「私は。よろしく」

「室長助手のリナリー・リーよ。よろしくね、さん」

「私のことはでいいよ、リナリー」

「それじゃあ、そうさせてもらうわ」

教団に女性は少ない。
外見的に歳も近いだろうふたりは、楽しそうに自己紹介をした。

ラビを置いて歩きながら。

「あぁーー!!ーーーー!待ってさ〜〜〜〜。オレまだ復活してないぃ・・・」

「安心してラビ。は私が責任持って室長の所に案内するわ」

「ラビ、ここまでありがとう」

「オレも!オレもいっしょ行く!」

「残念だけど、ブックマンが呼んでたわよ」

「ゲッ」

リナリーに言われ、ラビはあからさまに嫌そうな顔をする。
嫌と言うより、残念だと言う方が大きいだろうが。

「ラビ。またあとで、ね?」

「・・・おうさーー!」

振り向きが優しく言い聞かせるように言うと、ラビは自分でも驚くほどすんなりと了解してしまった。

有無言わせないと言うか・・・。
上手く丸め込まれたと言うか・・・。

リナリーと共にが行ってしまった後、名残惜しそさに後悔するラビが居たのであった。





リナリーに連れられ着いた場所は、高性能機械と白衣の人々が多く見られる科学班の仕事場。
ここでは忙しそうに皆が仕事をしていた。

・・・ただ一人を除いて。

その人物の・・・のん気で明るい声が、良くこの場には響いた。

「はいどーもぉ、科学班室長のコムイ・リーです!」

(この人が噂の変人・・・)

切れ長の目をしているが、優しそうな顔付きと雰囲気の持ち主。
油断ならない侮れない人物だと、直感では感じた。

「歓迎するよ、ちゃん。まあまあ、ちょっとココに座って」

用意されたイスに座るように進められる。

「ブックマンから報告で話しは訊いてるよ。
記憶喪失、アクマの魂が聴こえ見える・・・不思議な力、千年伯爵から狙われているんだってね」

「詳しく付け足すと、その時の調子や体調によって変わるけど、
私はアクマの魂の声は半径200〜400mまでの範囲で聴こえるし、イノセンスも近くに有るなら感知することが出来る。
記憶の方は何かのキッカケや、時々夢の中で思い出だすんだ・・・。
千年伯爵に狙われる正確な理由は判らないけど・・・、それらに何かあるのかもしれない。
あと、私のイノセンスは特殊だから」

「イノセンスが特殊?報告ではキミの対アクマ武器は大鎌だと訊いているが、
門の前で見た対アクマ武器は白い布のようだったが・・・」

はイスから立ち上がり銀の十字架に触れ、イノセンスを発動させた。

(舞儀衣発動)

白銀の光を放ちペンダントが光ると、形を変えの両腕に純白の衣が纏わる。

「コレが私の防御専門の対アクマ武器。一部の場所に攻撃と衝撃を防ぐ結界を創ることが出来る」

さらにはイノセンスに念じる。

(コンバート(転換)デスサイズ(死神鎌))

『!!?』

また白銀の光を放ったかと思うと舞儀衣はデスサイズ(死神鎌)に変わった。

コムイを始め、その光景を見ていた者達は目を見開く。

「コレが主に使ってる対アクマ武器。そして・・・」

(コンバート(転換)セイントガン(聖者の銃))

デスサイズ(死神鎌)は、銀の十字架が埋め込まれた黒い銃へと変化した。

「使い勝手がいいのが、この対アクマ武器」

「これはいったい・・・・・・・」

「私の対アクマ武器は、私の意志に応じて3つの形態に変化する。
消費するエネルギーは便利な分、舞儀衣、セイントガン(聖者の銃)、デスサイズ(死神鎌)の順に大きいけどね。
ちなみに、それぞれ第二形態解放とか出来るから、固体の武器と考えてくれてた方がいいね」

「・・・見た限りは装備型なのに、意志に応じて形態を変化する・・・まるで寄生型のようだ。
3つの対アクマ武器が1つになったようなもの・・・。こんなタイプはボクも見たことが無いよ」

の胸元に戻った銀の十字架のペンダントに、コムイは手を伸ばして触れた。

「寄生型ではないと、加工されなければインセンスはちゃんとした対アクマ武器とはならない。
キミのイノセンスは加工されているようだけど、どうして?」

「それはわからない。私が記憶が失くす前ことで・・・、無人の教会で拾われた時には首から提げてた。
どうして、すでに加工されたイノセンスを持っていたのかは・・・・・・」

「ふむ、そのイノセンスは詳しく調べてみる必要があるね。もしかしたらキミの記憶の手掛かりがあるかもしれない」

口元を手を置き、強い好奇心と興味の眼差しでイノセンスをコムイは見詰めた。

「あとで貸してもらえるかな?」

「え・・・?その、あの・・・えっと・・・、どうしても?」

「イヤかい?」

「・・・コレは私にとって、大切なもので・・・常に身に着けてないと落ち着かないんだ。
早めに返してもらえる・・・?」

「―――・・・・・なるべく早く返すよ!」

不安そうな表情から上目遣いで尋ねる

女性とも少女も言える、美しく可憐な容姿の、そんな姿が可愛くてないはずが無い。

我を忘れたようにコムイも惚けてしまったが、思い出したように強く返事を返した。





コムイに付いて来るように言われ、言われたまま付いて行けば逆ピラミット型のエレベーターで移動していた。

面白そうにキョロキョロと周りやエレベーターを観察する

「どこに行くの?」

「もう着いたよ。ここでキミやイノセンスをお見せするんだ」

『それは、神のイノセンス。全知全能の神の力なり』

エレベーターが止まったかと思えば、カッと光に照らされ現れた、立派なイスに座っているフードを被った5人の姿。

この空間にその者達の声が酷く響いた。

『またひとつ・・・、我らは神を手に入れた・・・』

「ボクらのボス、大元師の方々だよ」

意味有りげにを見るコムイ。

「さあ、キミの価値をあの方々にお見せするんだ」

「・・・?」

どういう意味だろう・・・と思うのも束の間、背後から何本のも触手が身体に巻きつく。
持ち上げられ身体が中に浮く。振り向くと自分を持ち上げている触手の持ち主が目に入った。

「はじめまして・・・、アナタは身体の中にたくさんイノセンスを持ってるんだね」

「!?・・・わかるのか・・・?」

「うん、わかるよ。だからアナタが居たのもわかってた」

人とはほど遠い姿をしている為、初めにその姿を見た者は驚くのだが、門番の時と同様には驚きもしなかった。

だが、ズズズ―――と触手が銀の十字架のペンダントに入って来るとの顔色が変わった。

「なっ、何っ!?コレは・・・っ」

「キミの十字架は、とってもすばらしいよ

ニコっと、コムイはとても楽しそうな笑みを浮かべる。

「どうだい、ヘブラスカ。この神の使徒は、キミのお気に召すかな?










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