第11夜 悪の総本部




イノセンスも無事回収。
任務に終わり、後は黒の教団に帰るのみ。

エクソシストのブックマンとラビは、イノセンスの他にも思わぬ収穫を得た。

それが、新たなエクソシストの少女・

端麗な美貌の容姿を持ち、戦闘の経験と知識も豊富。
大戦力間違いなし!の実力を持っていた。

記憶喪失であるが、とある人物に逢う為に彼女は黒の教団へと行きたがっていた。

そんな彼女を連れて、ブックマンとラビ、探索部隊(ファインダー)は汽車で教団へと向かっている最中。
途中、停車した駅でブックマンは電話で教団にのことを報告していた。

ーー!ーーー!!どこ行ったさー!ーー!!」

ラビは声を上げながら、辺りをきょろきょろと見渡す。

「煩いぞ、小僧」

溜息を吐きながらブックマンは電話の受話器を置いた。

「ジジィ!がっ、がいないさ!!」

嬢なら、売店を見てくると言っていたぞ」

「売店にも行ったけどいないんだってーの!!」

頭を両手で押さえながら半泣きしそうな情けない顔のラビに、ブックマンはまた溜息を吐いた。

「まったく、嬢に入れ込みよって」

「んなこと言ったって、は美人だし!無邪気なトコかわいいし!
着痩せしてるからわかんねぇけど実はスタイル抜群!!なんだから仕方ねぇんだよ!」

「ノロケるな」

ブックマンは、これで何度目か分らない溜息を吐いた。

「だが、確かにあの娘には引き寄せられるものが有る」

「ま、まさかジジィ・・・、に惚れ・・・ダメだーーーー!!ダメってーか無理あるだろ!!?

「んなワケがあるかーーーッ!!お前の頭にはソレしかないのかッ!!!」

ブックマンのツッコミの蹴りがラビに入った。

「あの時の嬢の眼を、お前も見ただろう」

真剣な顔で言うので、起き上がったラビが訊き返す。

「教団に連れて行ってもらうのに、がジジィを説得しようとした時の、あの眼か?」

「そうだ。――――あの眼、簡単に出来る眼ではない。
何処までも強く、奥まで深く、揺ぎ無い、己の強さの意思。
数々の困難と修羅場を潜り抜き、理解し悟った者が初めて出来る眼だ。
だからこそ、相手を引きつけ核心を据える力がある。まさかあんな眼が出来る者がおろうとは・・・。
しかもあんなにも若い娘で・・・・・」

「・・・なぁ、それって・・・・・」

「あの娘は・・・、私達以上に過酷な運命の中を生きてきたのだろう・・・・・・」

哀れむようにブックマンは言った。

「・・・・・オレ、探してくるわ。そろそろ汽車が出る時間だから」

方向を変え、ブックマンに背を向けるラビ。

が、オレに言ったんだよ。『選んだ道を進みなさい、未来も大切だけど今も大切にして』って・・・。
どんな運命とか道とかの中に居るのかは知らねぇけど、
オレはにも、大切にしたいと思える今であってほしい


「小僧、お前・・・――」

「いんや、イマサラ言われなくてもわかってるって。オレはブックマンの後継者だし、何が出来んのかわかんねぇけど、
こんな状況でも・・・こんな状況だから、せめて楽しく過ごしたってバチは当たねーだろ?」

「ブックマンに、心はいらない」

冷たく放たれた、幾度となく訊かされたセリフ。

「・・・でもなら、プラスにはなってもマイナスにはなんない・・・って、なんか根拠の無い自信があるんさ。
も言ったとおり、オレは選んだ道を進むさ!

顔だけ振り返り、ニカっとブックマンに明るく笑って見せた。

こやつはこやつなりに考えているのだと、ブックマンは自らの弟子を少し見直した。

「あ!v」

前からが自分達の方に走って来るのをラビは嬉しそうに見つける。

「あー良かった。汽車が出る時間に合わないかと思ったぁ〜」

側まで来ると、は安堵の溜息を吐く。

「戻られたか嬢」

「駅の出入り口の方から来たみたいだけど、どこ行ってたん?」

「ん?駅の近くにある、あの森に」

そう言っては、ここから見える森の頭を指差した。

「何でまた?」

「アクマが居たから、破壊しに」

「ふーん、アクマが・・・・・」

ラビの言葉は途中で途切れた。

「「アクマ!?」」

ブックマンとラビが声を上げる。
良く見ると、ロングスカートの裾の部分が少し薄汚れてくたびれていた。

「聴こえてくるアクマの声を放っておけないからね」

「一言なんで言ってくれなかったんさー」

嬢、主は狙われているのだ。単独行動は控えよ」

「ごめんなさい。レベル2が1体で後はレベル1が3体だったから、ひとりでも大丈夫だと思ったもので・・・」

「聴こえてくる声でアクマのレベルもわかるん?」

ラビの質問には頷いた。ブックマンも関心があるようだ。

「レベルが高いほど、内蔵されている魂の泣き声が聴こえるんだ」

「へぇ〜、便利でいいな」

羨ましそうにしているラビを見たは、哀しそうに顔を少し伏せた。

「確かに便利で役に立つけど、そんなにイイものでは無いよ・・・・・」

「へ?」

「代償は大きい・・・、ってこと。
――――未知の世界は眩しくも見えるかもしれない。でも実際にキレイだとは限らないんだよ」

の微笑みは、少々憂いを含んでいた。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・?」

ブックマンは無言。ラビはセリフの意味を不思議に思ったが、ふと思い出して尋ねた。

「そーいや、ケガとかし無かった?って、ああ!スカートちょこっと破れてる!
―――もしかしてのキレーな脚に傷が・・・・・」

ロングスカートが裾から20cmほど裂けてるのを見つけたラビがに近づくと、
少しスカートを上に引っ張って露になる脚を覗こうとした。

ドコ ドスっ

その行動に怒りの、ブックマンの蹴りがラビの顔に、の膝蹴りがラビの腹部に入った。
衝撃のままラビは後ろへと倒れる。

「何しとんじゃお前はっ!」

「オレはただ・・・が脚にケガしてないか確かめようかと・・・」

「ケガなんてしてないっ!!変なコトするな!!!」

「怒んないでさー!だいたい今の膝蹴りで脚見えたぞv」

「うるさい黙れ!!脚が見られることじゃなくて、お前の下心のありそうな行動が許せないんだっ!!
この変態!!!」

「変態!?」(ガーン・・・)


ラビがショックを受けたのは自業自得。
ブックマンには見直したのを撤回され、には不快心を持たれた。

ぎゃあぎゃあと、3人の騒ぎは汽車の発車ベルが鳴るまで続いたのだった。





第11夜 悪の総本部





「・・・・・ぅ・・・ん・・・」

身に感じた違和感、浮遊感には気がついた。

「おはよv眠り姫v」

「・・・・・・・・・・・」

目の前、間近にラビの顔。
寝惚けて停止した思考が、一気に覚醒した。

「うわぁーーーーー!!!!」

ラビにお姫様抱っこされていたは叫びを上げ、ジタバタと暴れだした。

「ちょっ、落ち着いてっ・・・」

ばきっ

「・・・ほしかったなぁー」

ラビは顔に、見事にの拳を喰らった。

「何で私はラビに担がれてた!?ココはどこ!?」

パニック状態の
地面に足をつけラビから自分の荷物であるトランクを奪う。
周りを見渡し、見慣れない景色に?を飛ばしまくっていた。

「覚えてないんか?汽車の中でまた寝ちゃたんさ。んで、オレがココまでお姫様抱っこして来たの」

「起こしてくれれば良かったのに・・・・・」

「だってぇー、があんまり気持ちよさそうに寝てて、寝顔がかわいかったんだもん」

「もう一回喰らっとく?」

「え、遠慮しときます・・・」

半眼で拳を作って見せるに、ラビは小さく降参の手を上げた。

「あれ?そう言えばブックマンと、あの白い服の人達は?」

白い服の人達とは探索部隊(ファインダー)のことだ。辺りにはブックマン達の姿は無い。

「探索部隊(ファインダー)とジジィは、もう地下水路から教団内に入ってった。
謎多きには念の為、入る前に門番の検査、受けてもらわないとあかんからオレ達は別コースってワケ」

「ふーん。じゃあ、もう黒の教団なんだ。―――で、教団はどこ?」

「アレ」

ラビが指差した先を見た。

目の前にあった絶壁の頂上に、建物・・・らしきもの。

「アレですか?」

「アレさ」


何故あんな所に・・・・・。
アクマに責められにくいようにする為だろうか?
だが、そうだとしたら逆に空を飛べるアクマの方が有利だ。そして教団の人々に逃げ道は無い。
――ならどうして?とりあえず・・・・・。

「登るのが大変そうだなぁ・・・」

疲れたように呆れて、は崖の上を見つめていた。

「ダイジョウブ!オレにおまかせ!」

ラビは太股のホルスターから対アクマ武器である槌を手に取り、発動する。

、ここ握って」

「ここ?」

持ち手の部分を握らせと、空いている手でラビはしっかりとの腰を抱き寄せた。

「え!?何・・・」

「大槌小槌・・・伸っ!!!」

ラビの声と共に、槌が崖の上目指して凄い速さで伸びる伸びる。

「ええぇぇぇ!?これでぇぇぇ!?」

「伸伸ーーーーんっ!これで上まで、あっ!と言う間ぁ!」

確かにあっ!と言う間に頂上の建物に着くようだが・・・。

「ねぇ!このままだとぶつからない!?」

「ハハ・・・、便利だけど実はブレーキの加減がちょい難しいんだよなぁ、コレ」

「だったら使うなーー!!(怒)」

ぶつかる。このままだと確実にぶつかる。
――――ぶつかるのが避けられないのなら・・・。

「私、手を放すから!ラビ!ちゃんと私のこと捕まえてて!!」

「えっ!?!?」

予告通りがラビの槌から手を離す。ラビが元からしっかりと腰を捕まえられている為、落ちはしない。
は放した手で銀の十字架のペンダントに触れた。

舞儀衣(まいぎころも)発動!

銀の十字架は白銀の光と共に姿を変えの両腕に纏わる。
それは純白の衣だった。

純白の衣がの腕に纏わると、まるで天女が羽衣を纏ったかのよう―――――。

「ラビ!発動を解いて!」

見たことに驚いていたラビは、言われるまま自分のイノセンスを解いてしまう。
今の場所は門の前、崖の頂上の上。空中である。
ぶつかることは無かったが、下に落ちる。

同時にの両手の甲に白銀の模様が浮かぶと、ラビとは半透明の球体に包まれた。

落下する速度は緩やかで、風圧は無かった。

「うお!スッゲェ・・・・・」

ラビは自分達を包む球体の内側に手を触れみながら、感嘆の声を漏らした。

ゆっくりとふたりが門前の地に着地すると、包んでいた球体・・・結界は消えた。
が発動を解き、舞儀衣(まいぎころも)は十字架のペンダントに戻る。

「びっくりした・・・。ぶつかるかと思った」

、今のって結界?」

「うん、結界。コレが私の防御専門対アクマ武器」

「へ?でもの武器って大鎌じゃなかったけ?」

「だから、防御専門」

「?」

の言っている意味が今ひとつ分らないラビだった。

「ここが・・・・・――」

目の前の建物を見る

巨大な黒い塔。
周りには黒い雲が掛かり、コウモリ型のゴーレムが無数に飛んでいた。
かなり怪しい雰囲気。

「悪の総本部!?」

「・・・に、いっけん見えっけど黒の教団さ」

黒の教団。ここに彼が居るかもしれない。
それにしても・・・・・。

(さすがクロスが居た場所だなぁ。雰囲気出ててぴったりだ・・・・)

どんな雰囲気で何がぴったりだ、とクロスがそれを訊いたならそう言うだろう。

などと思っていると、目の前に一匹のコウモリ型のゴーレムが飛んで来た。





科学班のモニターには、外のゴーレムからのラビとの映像が映り出されていた。

興味心身にモニターを覗いて見ている一同。

「へぇー、今のがあの娘の対アクマ武器か・・・」

「しかしキレイな娘だなぁ〜」

「ほんと・・・キレイな人ね」

「・・・それに可愛いぃ」

「コムイ室長、どうしたんですか?さっきから黙ったままで」

コーヒーを片手に、コムイがなにやら考え込んでいた。

「変だな。ブックマンの報告では、新たなエクソシストである彼女の対アクマ武器は、大鎌のはずだ」

「え?でも今の・・・・・」

「それに彼女はイノセンスではなく、すでに加工された対アクマ武器を持っている。・・・何故だ?
寄生型ならともかく、見た限りでは装備型・・・。もうイノセンスは加工されていることになる。
イノセンスを加工し武器化する方法は、ヴァチカンと黒の教団しか知らないはずだ」

コムイのセリフに、ハッとして一同はざわめく。

「はじめまして、ちゃんだよね?」

ヘットホンのマイクを手に取り、コムイがゴーレムを伝って話しかけた。





目の前に飛んで来た一匹のゴーレムから聴こえてきた声に、も話し返した。

「はい、です。はじめまして」

『ブックマンから話しは訊いてるよ〜〜〜。とりあえず門番に検査、受けて』

「あ、はい。えっと、門番って・・・」

「最初は驚くと思うけど、心配ないかんな」

勇気づけるようにラビがそう言ってくれた後、門に付いている顔と目が合った。

「はじめまして、アナタが門番?」

「お、おう!」

「私は。よろしくね?
―――それにしても、ずっとココで門に顔だけついてるの?酷い雨風の時は大変だね」

「おお・・・!そうなんだよ!そんな心配してくれたのはアンタだけだよ!アンタ、イイ奴だーーー!!

の言葉に嬉し泣きしだす門番。

(全然驚いてない!?普通に接してるさ・・・)

門番に対して驚かないを見て、逆にラビが驚いた。

彼女と出会ってからラビは驚かされてばかりだ。
謎が多いことも有るが、なにより考えもしない、突拍子もないことをすることがある。

見ていて飽きない。むしろ次に何をするか期待してしまう。

『もんば〜〜〜ん。泣いてないでちゃんの検査してあげて〜〜〜〜』

ゴーレムからのコムイの声に門番は泣き止むと、顔をぐおっと飛び出させた。

(レントゲン検査!アクマか人間か判別!!)

門番の目から出た光に照らされる。

ピコ ピコピコ

「セーーーーーーフ!!!大丈夫!人間だーー!!」

は安堵した。
これで人間じゃないなんて言われたら、たまったもんじゃない。

<正体>――魂は神であっても、身体は人間と同じだから、そんなことは多分ないとは思ってはいたが。

「開門んん〜〜〜〜」

ゴゴゴゴゴゴゴ

『入城を許可します。ちゃん』

門が音をたてて開いた。

ここに、この先に彼が居るかもしれない。
逸る気持ち抑えるように、神妙な顔で開いた門の中を見つめる。

・・・?」

そんなの顔をラビが覗く。

「あ、ごめん。なでもないよ。ただ、これからなんだなーっと思って」

ラビから再び門の中に、真っ直ぐと視線を戻した。

「これから・・・、これが入り口だ・・・・・・」

は、首から提げている銀の十字架のペンダントを握り締める。
トランクをしっかり持ち直し、門の中へと歩き出した。

私は来た。ココに来た。黒の教団に来た。
・・・・・アナタの元に戻って来た。


だから―――――。

アナタは私の元に・・・・・。





「謎多き美少女か・・・。鑑定しがいがありそうだv」

モニターから、門の中に入る少女をコムイは楽しそうに見ていた。








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