第10夜 聖なる裁き




任務で着た太陽が昇らない街で、オレが出会ったひとりの女、

少女とも、女性とも言える。
トシのせいか、雰囲気のせいかわからないけど、は良く変わる。

オレがはじめて会った時のは、色っぽいオトナのネーちゃんだったv
モロタイプで思いっきりストライクさvv

でも今思えば、いつものストライクはなーんか違ったんだよ。

はスッゲー歌が上手くて、魅入って聴いてたさ。スッゲー感動すんだよ!マジでっ!!

こんなにも美人なもんだから、言い寄ってくる男も多そうだ。
何かバーでキザそうな男が言い寄ってたな・・・。なんて名前だったけか?まあ、そんなんいいか!(←酷っ)

バーを出た時のは、清楚で落ち着いたネーちゃんになってた。ちょっと驚いたさ。
けど美人は美人vコレはこれでいいさv

そしたら今度は、無邪気に笑った顔がかわいかったぁ。仕草もかわいらしくなってたんよ。
今まで年上だとばかり思ってたのに、年下に思えた。
どうやらこっちが普段のらしい。

オレ、年上が好みなんだったバズなんだけど・・・可愛いからいっかv
てか、ならどっちでもいいさvv


だっての中身が変わったワケじゃねぇんだから。
雰囲気が変わっても、の中身は変わってない。

そんなだから、オレは自分のこと話しちまったのかもしんない。

俺が持つ、ブックマンになると言う―――夢と不安。希望と孤独。
両方の気持ちが渦巻くオレに、はさ、言ってくれたんさ・・・。


『名を、存在を変えても、キミはキミ以外の何者にもなることは出来ない。そうでしょう?』


そう言ってくれたは、神聖で神秘的な女性だった。
微笑みは女神そのもの。

その言葉に、オレは救われたんだよ。
その言葉に、オレは癒されたんだよ。

その言葉に、オレは・・・・・・・。

―――――心、奪われた。


マジでストライクしちまった。

いや、今までのがマジのストライクじゃなかったか、って言うと、いつでもマジはマジだったんだよ。
でも理想や本能、憧れからくる浮かれで、マジでこの人じゃなきゃ絶対ダメ!ってまでではなかった。

まあ、一時的なもんだ。だってオトコだもん。

けどは違う。
に対してはアウト!!

美しさに、色っぽさに、神秘さに、・・・あの優しさと暖かさ。
絶対の安心感。

オレ・・・アウトしちまった。

だからっ――――。

がアクマだなんて、信じたくないっ!!

アレは全部、演技だったんか?
本性はアクマで、オレ達が回収したイノセンスを奪う為の・・・。

――――――人間は最初から疑う。自分に近づく者は敵と思え。
怠った訳じゃない。

アクマは人間に紛れこんじまう。だから人間は皆、伯爵の味方にみえちまう。

でも、だけは、どうしてもアクマに・・・伯爵の味方にはみえなかった。思えなかったんさ。

オレは、はじめてかもしんないのに・・・。
こんなにも、この人じゃなきゃダメだと思ったこと・・・・・・・。

それでも、の幸せの為なら、オレは身を引けると思う。
オレはブックマンになるんだし、には幸せであってほしいから。

―――でも、こんなっ・・・こんな諦めかたはねぇよッ!!!!





第10夜 聖なる裁き





アクマを含めて、皆の視線はに向けられていた。

はポケットに水晶をしまうと、アクマの方に歩き出す。

恐れも恐怖もない。
・・・ゆっくりと、落ちるた足取りで。

その様子を見たアクマは、自分達の要求を呑んだのだろうと思い―――。
ブックマンは、がアクマだという肯定だと受け取った。

「小僧、イノセンスを取り返すぞ」

「取り返すって・・・」

嬢、いや、アクマに破壊する」

「!!」

ラビは目を見開き、次に苦悩に顔を歪ませブックマンを睨みつけた。

「あれは・・・あれは、なんさ・・・」

「そうだ、あれは嬢で、アクマだ

「・・・・・・つ」

歯を強く噛み締め、槌を強く握り締める。

視線に入るをまともに見ていられなく、顔を逸らした。

1体のアクマの前まで来ると、はニコッと微笑む。
瞳を閉じ、首に提げていた銀の十字架のペンダントを両手で祈るように握り締め、祈りを捧げた。

「罪深きアクマに、神の裁きを」

凛とした声。
次に開かれた鮮やかな紅い瞳は、鋭かった。

デスサイズ(死神鎌)発動!

瞬時に、十字架は白銀の光を放ち形を変える。
片手で軽々と<黒い何か>を振るうと、前にいたアクマが真っ二つに斬られ破壊された。

『!?』

一同は予想外の出来事と、その速さに振るわれたモノが確認できなかった。
だが今は判る。が片手に持っているモノは、黒い死神鎌だった。

刃が柄についていて部分の、広い部分には銀の十字架が埋め込まれていた。

「オ、オマエェーーーー!!」

「誰も、イノセンスを持って伯爵の所に行くなんて言ってない」

騙された!と言わんばかりのアクマに、は冷たい笑みで言い放った。

「悪いけど、さっさと終わりにさせてもらうよ」

デスサイズ(死神鎌)を両手で持ち直し、アクマに素早く向かって踏み込む。
風を切るような音と共に、またザシュっと1体のアクマが斬り破壊された。

「ラスト1体」

の紅い目は鮮やかで濃く、強く、冷たく、鋭く―――。
戦いに戦い抜いた―――戦う者の目だった。

「このォーーー!!」

アクマがに跳び掛ろうとする。

が後ろに跳び回避したことで、アクマは彼女がいた場所の地面に衝突・・・。
――と思いきや、そのまま地面の中に入って行ってしまった。

「地面の中の移動・・・、コレがこのアクマの能力・・・」

呟くと、ラビ達の所までは戻る。

「イキナリ地面から出てくるかもしれないから、気をつけて」

注意を促す。

ラビ達は、と言うと――――。
あまりの予想外の連続で、頭の中が大混乱。ひとりブックマンだけが、驚きながらもなんとか冷静さを保っていた。

「えーと、?これっていったい・・・。つーか、はアクマじゃない、よな?」

「私はアクマじゃありません!」

すべてがハッキリした訳ではない。
だが、がアクマではない。それだけでラビは十分で良かった。

嬢、その大鎌はもしや対アクマ武器・・・イノセンスか?主は、適合者か?」

十字架のペンダントから変化し、アクマを破壊した武器。
そんな奇怪な武器を創れるのはイノセンスだけ。

ブックマンはの、銀の十字架が埋め込まれた黒い大鎌を見ながら尋ねた。

それには冷静に告げた。

「ええ、これはイノセンスで対アクマ武器。私は適合者でエクソシスト

ーーー!!」

それを訊いたとたん、思いっきりに抱きつくラビ。

「うわっ!?ちょっとラビ!」

は諌める声を上げる。

「神サマーーー!を選んでくれてありがとうさぁー!!イノセンス、バンザイっ―――」

ゴンっ

嬉しさに涙を溜めて叫ぶラビの頭は、デスサイズ(死神鎌)の刃を裏返した柄の部分で殴られた。

「離れろっ!身動きできなかったらアクマの攻撃が避けられないだろ!!」

痛みがトドメ。
震えて頭を押さえるラビの目から涙が出た。

「詳しい話はアクマを破壊した後!来るよ、左!

が叫ぶと、左の地面からアクマが跳びだした。
いっせいに皆はアクマの攻撃を避ける。

避けられたアクマは、また地面の中に入って行った。

「次は右!」

の声で、右に注意を払うと言葉通りにアクマが右から現れる。
またも避けられたアクマは地面の中へ。

「もう一度右!」

現れる場所が分るなら避けるのは容易い。

(どうしてには、アクマが出てくる場所がわかるんだ?)

横目でを見ながら、不思議に思うラビ。

「地面に隠れたって無駄だよ。その哀しき魂が内にある限り・・・」

次にアクマが出てくるであろう方に、デスサイズ(死神鎌)を振り上げた。

「囚われしアクマに、魂の解放を」

デスサイズ(死神鎌)が力強く振り下ろさせる。

「ホーリージャッジメント!」

白銀の雷のような光が放たれアクマを呑み込む。

「ギャアアアアァァァァー」

呑み込まれると共に跡形なく消し去られてしまった。

「・・・・・終わった・・・」

デスサイズ(死神鎌)を振り下ろしたの後姿を見て、ファインダーが呟いた。

のデスサイズ(死神鎌)が白銀に光ると形を変える。
白銀の光は首元に移動し、銀の十字架のペンダントに戻った。

「話して貰えるか?嬢」

ブックマンの目がを見据える。
だが決して、先程のような鋭い眼ではなかった。

「私がアクマかと訊かれた質問に答えなかったのは、否定の言葉を出さず、余計なことを言わないでアクマに近づき、
1体でも確実に破壊したかったから」

は自分のことについて話し出す。

「私には3年前までの記憶がない。でも何故か普通の者が知らないことを知っていた。
<AKUMA>こと、<千年伯爵>こと、<イノセンス>こと、<黒の教団>こと、<エクソシスト>こと。
そして無人の教会で拾われた私は、イノセンスを持った適合者だった」

ポケットから水晶を取り出しブックマンに手渡す。

お願いです、私を黒の教団へ連れて行ってください。その為に私はココでアナタ達を待ってた。
奇怪がある場所なら、必ず黒の教団のエクソシストが来てくれると思って」

教団の場所は知らなかったから・・・、と付け足した。

「アクマは、伯爵が主を待っていると言っていたが?」

「・・・私は、狙われてるんです。千年伯爵は私を《終焉の鍵》だと言って、
自分側に連れて行きたいらしくて・・・・・・」

思ってもいなかった重大発言に一同は目を丸くする。

「しゅ、《終焉の鍵》って何さ?」

「わからない。私には不思議な力があるから、そのことと何か関係があるのかもしれない」

「不思議な力?」

「私にはね―――見えるんだ、アクマの哀しき魂が。聴こえるんだ、アクマの哀しき泣き声が」

「もしかして、さっきアクマの出てくる場所がわかってたのって、その力のおかげ?」

頷くを見てラビは、ああ納得と言った顔をした。

「・・・失った記憶、不思議な力、そして《終焉の鍵》として、伯爵に狙われるか・・・・・」

深刻な顔でブックマンは呟く。自分なりに推測しているのだろう。

「だが何故3年たった今のになって教団へ行こうとした?」

3年間の空白。
クロスのことは言えない。

「どうしても、逢いたい人が居るんです」

―――<本当の私自身>のことも言えない。言ってはいけない。知られてはいけない。
・・・・・・・それが定め――――。


・・・言える範囲で話そう。

「二ヶ月前、記憶の一部分を曖昧に思い出した、あの人のことを・・・・・・。
あの人は黒の教団で私を待ってるって言っていた!私はどうしても、あの人に逢わなくてはいけないんです!」

私のすべきことと、戻るべき場所の為に。

(あの人、か・・・)

にとって、それほど逢いたがっている人物だ、大切な人なのだろう。
ラビは彼女の、その想いの強さに、不安にも似たやり切れない気持ちになった。

「理由はともかく、主の詳しい詳細はハッキリせん。そんな人物を教団に連れて行って良いものか・・・・・」

本来ならイノセンスの適合者であるなら教団に連れて行くべきだろうが、はあまりにも謎が多すぎる。
悩むブックマン。

「ならブックマン、アナタにとって真実とは何ですか?」

凛とした声でが問いかける。

「自らの目で見て、訊いたのがアナタが感じたひとつの真実。
アナタがアナタの今の真実を信じないなら、いったいアナタは今、何を信じます?

自分が感じたことが正しいとは限らない。
だがしかし、それもひとつの真実だ。今は何を信じるか、否か。

(この娘・・・・・・)

真っ直ぐに向けられた紅い瞳は、濃く、しっかりとした、強い光を秘めていた。

「―――――わかった。教団へ連れて行こう。そうと決まればイノセンスも回収したことだ、長居は無用。
早々に帰るとしよう」

ブックマンのセリフを訊き、は嬉しそうに顔を輝かせた。

は信じれる。は信じることの出来る存在だと、ブックマンは確信したのだった。

(やっと・・・やっと黒の教団へ行ける。彼に逢える・・・!)

念願が叶う。ずっと願ってきたことが叶う。
この為に自分はクロスの元を離れ、これから科せられるであろうリスクを承知で教団に行く決意をしたのだ。

その結果がこの世界との別れで、この世界での終わりだとしても。

話がつき、この場から移動しようとそれぞれ歩き出すと、ラビがの腕をつかまえた。

「悪りぃけど、先に行っててさ。ちょーとに話しあんだよ」

「・・・少しだけだぞ」

ラビの様子を察したブックマンはそれだけ言うと、探索部隊(ファインダー)と共に広場を離れた。

「ラビ・・・?」

はラビに首を傾げる。

―――すると、身体が痛いくらい強く、ラビに抱きしめられた。

「マジで・・・、マジでが・・・アクマだと思った・・・」

「・・・・・・・・・・」

「信じたくなくて・・・、不安で・・・怖かった」

「ごめん・・・」

情けないくらい弱い声で囁くラビに、が本当に申し訳なさそうに謝罪した。

「ラビ・・・・・・」

紅い瞳を閉じる

「眠い・・・・・・」

「はぁ?」

「私・・・実は、この街に来て一週間・・・、まともに寝てなく・・・て・・・・・」

は夜はひとりの室内では眠れない。
クロスと別れた後は日中寝ていたのだが、奇怪が起きていたこの街では日中など無い。ずっと夜。
その為、はまともに眠れていなかった。

完全な寝不足。限界。

ラビの胸に寄り掛かり、規則正しい静かな寝息で眠ってしまった。

(えぇ!?寝ちゃったんさ!?!?この状態と雰囲気でっ!?)

結構イイ雰囲気だと思ってたのに・・・。
ちょっとショックのラビだった。

「ま、いいさ。教団でのこれからが有るんだしvでもは鈍そうだから大変そうさ〜」

鈍そうではなくて、鈍い。クロスのお墨付きだ。
そして、そのコトで苦悩するのだ、これから先・・・。

ラビは眠るを抱き上げた。

「気長に地道にがむばー、オレ!」

自分で自分のことを応援するラビ。

静かに熟睡しているの寝顔を見ながら、ホントキレイな顔だな〜っと呟き、
ブックマンに追いつくべく歩き出したのだった。

黒の教団でのとの生活に、わくわくと期待で胸躍らせながら。





余談だが、この後寝ているを抱きかかえたラビを見たブックマンは、
ラビがに手を出したのではないかと疑い・・・。

「小僧ッ!お前は早々に、何をしたーーー!!!」

「<まだ>何もしてねぇーーー!!!」


蹴り飛ばされたであった。

<まだ>の部分が、かなり強調されていたが恐ろしさゆえ、それをツッコム者はいなかった。
騒ぎの中でも探索部隊(ファインダー)に任されたは、熟睡しているままだった。








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