第1夜 女神降臨







―――――さあ、幕を開けよう。

真の全ての始まり。

幾度となく繰り返す、止めることの出来ぬ流れ。

傷つき傷つけ、戦いし宿命。

抜け出さず続き、廻る運命。

抗うことすら知らぬが定め。

<イノセンス> <ダークマター> <エクソシスト> <アクマ> 

<堕天使> <女神> <守護者> <終焉者> <終止者>

―――――さあ、役者は揃った。

真の物語を始めよう。

世界の終焉か、終焉の終止か、どちらかに続く物語を始めよう・・・・・・・・。






第1夜 女神降臨







――――――季節は冬。

雪でも降るのだろうか、まだ夕暮れ時だと言うのに辺りは空一面に掛かった雲で薄暗い。
小さいとは言え森の中なら余計に暗く感じるだろう。

場所は小さな森の中央。

拓けて余地が広がっていた。
その木々と茂みに囲まれた余地に佇む青年が一人。

綺麗に整った端正な顔。
少し色素が薄い茶髪に金の瞳。
左耳にだけ赤い石のピアス。
ネイビーの上着を開けて着て、中は黒の丈長の半袖。下はベージュのズボンといった姿。

年齢は18、19といったところだろうか。

表情は無表情。
それはまるで最初から表情など無いようだ。

青年は、静かに空を見上げる。

彼の顔に表情が宿った。
どこか嬉しそうで、どこか穏やかで、どこか優しそうな―――――。

それはそれは愛しそうな表情だった。

「この世界でお前を待って約100年」

見上げている空に向けて両手を広げる、
――と同時に青年は体から青黒いオーラを発した。

「待っていた。―――――やっと、やっと逢える」

雲を裂き天空から白銀の光が射す。
光は青年の目の前で、天空から地へと繋がる光の柱となる。

「戻るんだ、俺はお前の元へ。戻るんだ、お前は俺の元へ。
それが<絆>、それが<誓約>。
俺たちは、互いに互いを必要にしなければ存在できない――――。それが俺たちの運命」


天空から・・・・、何かが光の柱の中を通って降りてくる。

それは一人の女性。

艶やかな漆黒の長い髪。
閉ざされた瞳。
滑らかな白い肌。
身に着けているのは、肩と胸元が出た清楚な白いドレス。

胸元の首の下、胸の谷間の上の位置には黒い十字の刺青らしきものがあった。

漆黒の長い髪と身に纏う白い布の端をなびかせ、光の柱を降りてくる彼女は
幻想的なまでに綺麗で美しかった。

神々しく神秘的で・・・・例えるなら女神そのものだった。

青年は広げた両手で彼女を受け止め、腕の中に納め抱きしめた。

「待ってた・・・・・・・・・・」

眼を閉じ愛しそうに彼女に顔をすり寄せる。
彼女に意識は無く、瞳は閉じられたままだ。

彼女との再会に浸っていた青年の顔が無表情へと戻る。

「やはり来たか、可笑しなシルクハット」

青年は、意識の無い女性が倒れないように抱きしめたまま後ろに振り返る。

そこには青年に<可笑しなシルクハット>というあだ名をつけられた男がいた。

「彼女が《終焉の女神》ですカvキレイな方ですネvこれほどまでに美しいとハv
貴方が彼女に執着するのもわかりますヨv我輩もとても気に入りましタv」

可笑しなシルクハットこと<千年伯爵>と呼び名を持つ人物は、
嬉しさに両手を合わせて体をはずませている。

「《終焉の女神》じゃない《終止の女神》だ」

「いいえ彼女には《終焉の女神》になってもらいまスv
何がなんでも彼女にはこちら側に来て頂きますヨ!v
さあをこちらに渡して下さイ!v

「イヤだ」

「そう言うと思ってましたヨvエンティルv」

千年伯爵は持っていた傘を空に掲げると上空から、木々の間から、茂みの中から、
千年伯爵の後ろにズラーーーと控えるかのように<AKUMA>と呼ばれる兵器が集まった。

「貴方を相手にする為、この日の為に我輩が用意したレベル2以上、
高レベルの500体以上のアクマちゃンv」

エンティルと呼ばれた青年はそれでも冷静―――と言うか無表情。
言われるまでもなく瞬時に、正確に集まったアクマ軍勢の数を513体と補足した。

彼にはそうする事が出来る眼と頭脳があった。

「エクソシストに破壊される前に、ここまで進化させるのは大変でしタv」

「迷惑なコトに時間と力を使うな」

そう言い捨てると、抱きしめている<>という名の女性を見る。

本来、<力>が自由に使えるなら苦戦してもこんなヤツらは問題なく破壊できる。
だが今の自分はを転生させるのに強大な<力>を使った後。
失ったエネルギーはすぐに回復するが、今後の事を考えると嫌でも自らの<力>を少しでも多く蓄えておかなくてはならない。

この状況で、彼女を抱え、護りながら戦うのは無理だ。

「一つ提案なんだが」

「なんですカ?v」

を隠してきてもいいか?
このまま俺がオマエらと戦うとすると、も無事じゃいられない恐れがある。
その後は探すなりなんなりしてかまわない、すぐに戻ってきて全部相手して殺るから」

普通はこんな事を今から戦う相手に持ちかけたりはしないだろう。
だが―――――――。

「いいですヨv」

敵のボスからあっさり了解が出た。

に死なれでもしたら我輩も非常に困りまスv
彼女には重大な役目を果たして貰わなければならないのですかラv
出来ることなら、なるべく無傷で手に入れたいですしネv」

そうだろうと思った。

お互いに相手の目的などお見通しだった。
両者とも、絶対にを死なせる訳にはいかない。
その為に多少不利で、彼女が危険な状態に陥っても死ななければ良い。死なれるよりは良い。

相手がどんな行動に出るかもだいたい予測できた。
後は・・・それをどう自分たちにとって有利にするかだ。

「んじゃ、ちょっと行ってくる」

「ハイ、いってらっしゃイv」

エンティルはを横向きに抱き上げるいわゆるお姫様抱っこをして、伯爵に背を向けた。
向けた背中から二つの青黒い光が生え、ダークブルーの天使のような美しい大きな翼になる。

その姿は堕天使。

エンティルはその翼を広げ羽ばたくと、空の奥へ光の線になって飛び去って行った。

「伯爵タマ〜、本当に行かせていいレロか?」

を早く手に入れるのに越したことはないですが、まあ焦ることはありませンv
エンティルは動けなくなるでしょうからネv無理はせズv
アクマたちに見つけたら、我輩のトコロに連れて来るように言っておきましょウv」

「それもシナリオ・・・レロロ?」

「ウフフvその通リv来るべき時が来る間までの・・・ですけどネv」

千年伯爵は、レロ言っている傘とそんな会話をして、エンティルと消えていった方向の空を見ていた。










・・・・・・・・・・」

エンティルは床に片膝をつき、愛しそうにを抱きしめる。

二人の背後には大きな十字架と祭壇。
手前には繋がっているイス。
ステンドガラス。

エンティルはを無人の教会へと連れて来たのだ。

完全に千年伯爵やアクマからを隠そうとは思っていない。
ただ自分が今から暴れるであろう戦いの巻き沿いにならない場所なら何処でも良かった。

、ゴメン―――、ごめん
やっと逢えたのに、傍に居てやれなくて、本当にゴメン。ゴメン、ゴメンよ」

眠っていて聞こえるはずのないに何度も謝る。

「でも仕方ないことなんだ。俺にはもう、この方法しかない。
俺はもう、お前を失いたくないから」

体を少し離し、の顔を見つめる。寂しさと哀しさ含みながら。

「必ず俺は戻ってくる。どれくらい経つか分らないが戻ってくる、お前の元に。
これは俺にとってもお前にとっても、試練なんだ」

エンティルはを優しく冷たい床に寝かせた。
そして胸元の十字の黒い刺青に触れる。

触れた手が青黒い光を放つと、十字の黒い刺青は後もなく綺麗に消えていった。

「これでしばらくは平気だ。でもずっともつワケじゃない。
お前自信が強くならないと意味がない」

手前に出した彼の手の平の上が白銀に光り輝く。

輝きが収まると、手の平には先ほどまでは無かった銀の十字架が乗っていた。

ペンダントになっている銀の十字架。

エンティルは十字架のペンダントをの首にかける。
チェーンの長さはちょうど銀の十字架が、さっきまであった黒い十字の刺青の位置と重なった。

、これで身を守るんだ。これを使って戦って、心身共に強くなるんだ。
もし限界だと思ったら黒の教団に行け。あそこはアクマも気安く近づけないだろうからな。
お前のことと、このイノセンスのことを知れば、教団はお前を重要視して大切にするだろう」

眠っているそう言い聞かせる。

、死ぬな。絶対に死ぬな」

の髪をそっと撫でる。

「いいか、いざとなったら、黒の教団へ。出来るだけ早く戻ってくる、待っていてるんだ」

エンティルは、のすべすべしい頬にキスをすると、彼女をそのままにして教会を出て行った。



数分後。

近くにある小さな森に信じられないほど強大な黒い雷が落ち、小さいとはいえ森一つを轟音と共に跡形もなく消し飛ばした。

森があった場所にはクレーターでき、大地は真っ黒に焼き焦げていたそうだ。










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