第0夜 終焉の序幕






「我輩と手を組みましょウv」

「断る」

二人の男が会話をしていた。

一人は、シルクハットに小さな丸メガネ。
語尾が独特でハートマークをつける、常にニッと笑っているかのような顔の男。

もう一人は、対照的とも言える美青年。

少し色素が薄い茶髪に金の瞳。左耳にだけ赤い石のピアス。
綺麗に整った顔とルックスは超美形といってもおかしくはない。
ネイビーの上着を開けて着て、中は黒の丈長の半袖。下はベージュのズボンといった姿。

年齢は18、19といったところだろうか。表情は何処までも無表情。

「まあそう言わずニv」

「嫌だ」

「仲良くしましょウv」

「仲良くなんぞしたかない」

「どうしてですカ?貴方と我輩は同じなのニv」

「何処をどう見たら同じに見える。
俺はお前のように、耳が尖ってなければ顎も巨大ではないし風船腹でもない

「・・・・・・・ハッキリ言いますネ・・・・・v
ですが我輩が言っているのは外見のコトではありませンv」

「知ってる」

「なら真面目にお話してくださイv」

「俺はいつでも大真面目だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「話は終わった。そんじゃな」

「まっ、待ってくださイ!v」

「なんなんだ、いったい」

「その言葉、そっくりそのままお返ししまスv」

「返される覚えなんぞないぞ。俺の結論は出ている。
それは既に述べただろう」

「何故ですカ?我輩は世界を終焉に導く者で、貴方は世界を終焉させる者なのニ?v」

「違う」

「違くなんかありませンv貴方は《終焉者》なのですかラv」

「俺は《守護者》だ」

「護るべき者は、もういないのニ?v」

その男のセリフに、今まで眉一つ動かさない無表情だった青年に変化があった。
絶対零度の怒りと殺気。
金の眼は身を貫くほどの冷たさで相手を静かに睨みつける。

まるで相手の男の死を予言しているかのように見えた。

男にしては珍しい冷や汗を出さずにいられなかった。



第0夜 終焉の序幕




「―――おっとコレは失礼しましタv悪気は無かったんですヨv
許してくださイvそんなに怒らないデv」

どこかまだ冷たさと不機嫌を残しながらも青年の表情はまた無表情に戻る。

「・・・・・とにもかくにも、お前が何度俺の元に来ようが俺の結論は変わらない。
俺はあいつ以外の命令は聞かなし、あいつ以外の奴と馴れ合うつもりも無い」

「でも貴方は、人間が嫌いなのでしょウ?v」

「嫌い」

「ならいいじゃありませんカv」

「それは出来ないな。
俺は人間が嫌いだが、あいつは人間のことが嫌いじゃない」

「人間は弱く醜く、汚い生き物だというのを良く知っているのニ?v」

「でも嫌いにはなれない。
・・・・・・あいつはそういうやつなんだ。
どうしようもないやつ。呆れたやつ。とんでもないやつ」

そう<あいつ>について語る青年の顔は一瞬、優しく穏やかで、愛しそうな顔になる。
本当にその人物が愛しくて愛しくて、たまらないのだろう。

「それでもあいつという存在を護りたい。何を犠牲にしても。
それが俺の役目。使命。
アイツは俺の存在意味・存在理由・存在の証だから。
―――――そのためなら俺は、真の《悪魔》にも《魔王》にもなる」


「貴方の望みはなんですカ?v」

「俺の望みは唯一つ」

「《終止の女神》の復活ですネv」

「それを知っているなら、俺がお前なんぞと手を組むことなんて、お前の腹がビックバンしても無理だろう。
お前が世界を終焉に導くなら、あいつはそれを止めるだろう。例え自分の護るべき世界でなくても、
お人好しの《終止の女神》なんだからな。俺はあいつを護る者、《守護者》。あいつの敵は俺の敵だ」

「そんなコトはないですヨvお手伝いしまスvむしろさせてくださイv
貴方一人じゃ大変でしょウ?v」

「多少のリスクは承知の上だ。そもそも何故お前が復活を手伝うんだ?」

「我輩も、女神様と仲良しになりたいのですヨv」

「お前は神を調伏するんだろう。その愉快な頭の中に矛盾と言う単語は無いのか」

「失礼ナvだいたい全然矛盾なんかしてませんヨvだって我輩が調伏するのは、<穢れた神>ですかラv」

「お前の言う穢れの基準と本質が判らん。さしずめと言ったところだろうがな」

「わかってるじゃないですカv彼女は<白>でありながら<黒>にもなることが出来る存在でスv
人間の<弱さ>と<醜さ>と<愚かさ><汚さ>を良く知っていルv
人間に利用され、裏切られボロボロにされながらも《終止の女神》であるが故に人間に取り付かれルv
とても哀れで可哀想な存在v今回のことだってそうでしょウ?v」

「その通りだ。だからと言って、が黒になるのを受け入れるハズがない。俺はの意思を尊重する。
―――それと・・・・、俺が知らないとでも思っているのか?お前は《代用品》にしようとしているだろう。
結局、お前も人間も同じだ。を利用しようとしているに過ぎないだろ」

「利用だなんて、とんでもありませンv我輩の場合は協力と言ってくださイv
仲間にさえなってくれれば、我輩は彼女を、人間のように傷つけたり裏切ったりはしませンv
それに彼女にとって―――、貴方にとっても悪い話ではありませンvむしろ良い話でスv」

「なんだと・・・・?」

「今回の件で彼女の魂は半分失われ、神としての<力>をほとんど使うことが出来ない
《不完全な神》になってしまいましタv
そうなると、再び彼女の<存在>も危ういのではありませんカ?vまた彼女を失うことになりますヨ?v」

「・・・・・・・・・・」

「過保護に護るだけが愛情ではありませんヨv」

「お前が愛情なんたらを語るな。愛情って言葉が薄っぺらなものになる」

「・・・・・・・・・・・話を進めますヨv
我輩は彼女を助けられまスv助けたいのでスv彼女が黒に染ますことが、彼女を助ける方法なのでスv」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かにな」

「そうでしょウv」

「だが方法はそれだけじゃないだろ。俺は俺のやり方でを護り、救ってみえる」

「・・・・・・・・そうですカ・・・・v残念ですネvしかし我輩は諦めませんヨv彼女には黒になっていただきまスv
―――――まだ彼女がこの世界で転生するまで時間が有りまスvそれまで良くこのコトを考えてみてくださイv」

「俺の邪魔をする時は、容赦なく排除するぞ」

「お手柔らかにお願いしまスv総ては彼女が降り立ってかラv」

「今度こそ話は終わったな。あばよ、可笑しなシルクハット

青年が地面を蹴り、消えるかのようにシュッとその場から去ると、
何枚かのダークブルーの美しい羽が地面に落ちる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

<可笑しなシルクハットをかぶった奴>という意味なのか、
はたまた<シルクハットをかぶった可笑しな奴>という意味なのかは分らないが、どちらにしろ
男にとっては好まないあだ名をつけられたのであった。

「貴方がどうしても我輩と手を組まないと言うなら、
どうしても手を組まなくてはならないようにしてみせますヨv《終焉者》・エンティルv

地面に落ちたダークブルーの羽が光の粒子となって消えていくのを見ながら、男は呟いた。



これはまだ序幕に過ぎない。

この幕が上がるのは、これから約100年後。

世界の終焉か、終焉の終止か、真の物語は彼女がこの地へと舞い降りてから始まろうとしていた。











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