バク・チャン狂想曲


――――ああ、くそぅ・・・ッ!

不愉快ながらも、期待されてる眼差しに耐え切れず『画期的育毛剤』などを使ってしまい・・・・・。
そのせいでオレ様の髪が長く伸びてしまった!
効果が切れるまで、切っても切っても髪が伸びてくるだと・・・・。

ああ、うっとうしい!!
おのれコムイ!!


なんであんな男が、黒の教団総本部の科学班室長なんだ!?
あいつより、オレ様の方こそが相応しいではないか!!

許さん!!許さんぞコムイッ!!!!

リナリーのことに関しても、コムイが邪魔だ。

このシスコンめ!!

む!?かゆくなってきたぞ、またジンマシンか!?
お、落ち着かねば・・・・・。

だが見ていろ!
必ずオレ様は、科学班室長の座もリナリーも手に入れてみせるっ!!!

このバク・チャン様がなっ!!!!

くっくっくっくっく、くーっくっくっくっく、ぐふっ(むせた)





バク・チャン狂想曲





うっとうしい髪を気にしながら、オレ様は間違った誕生日を祝われた。
リナリーに間違っていたことを謝られては、怒ることも出来ない。

ふと気がつけば、食堂からリナリーの姿が消えていた。

せっかく一緒に話しでもしようと思っていたのに・・・・・・。

周りでは勝手にドンチャン騒ぎが始まっている。

オレ様が主役じゃないのか!?

まったく不愉快だ!
リナリーもいないのなら、こんな所にいつまでもいる必要無い。

誰にも声を一言も掛けず、食堂を出て行った。





このまま今日は部屋に戻ってしまおう。
これ以上、誰かにからかわれるのも、からまれるのもゴメンだ!

それに、髪が邪魔で上手く前が見えない。ヘタに動き回らない方がいいだろう。

本部に用意された自分の部屋に戻る為、廊下を歩いて行く。

「バクさん!」

草原の小鳥のような声。

「リナリーさん!」

これはなんと言う偶然!
談話室の前を通りかかったらリナリーと鉢合わせした。

手にはカップが・・・―――。
その中には、一度コムイに使った<真実のお茶>が入っていた。

「どうしたんですかバクさん?こんな所で」

「いえ、なんだか疲れたんで、部屋で少し休もうかと・・・」

「そうですか・・・。あ、それはそうとバクさん、ほんとにごめんなさい。
また兄が・・・・・・」

リナリーが申し訳なさそうに見てくる。

「いいえ!リナリーさんが気にすることはありませんよ!
・・・まあ、祝ってくれる気持ちはうれしいですし・・・・・・」

「ほんとですか?良かった〜、バクさんがほんとに心の広い方で」

笑顔になるリナリー。
ああ、なんて可愛いんだ!

「・・・ところでリナリーさん、それは?」

「あ、これはバクさんがふるまってくださったお茶です。
兄が一度使ったものですけど、まだ使えそうだったから、出来れば私も飲んでみたくて・・・。
頂いてもいいですか?」

「えっ!?あっ、ハイ!どうぞどうぞ!!
ああそれと、こちらへ!出来ればお茶の感想を、じっくり訊きたいですので」

思っても見なかった事態に、我ながら見事な対応だ。
まさかリナリーが<真実のお茶>を飲むとは・・・!上手くいけば彼女の本心が知れる!

お茶と談話室のソファーに座らせることを勧めると、リナリーは疑い無く従った。

「それじゃあ、いただきます」

ソファーに腰掛け、カップからティーパックを取り出すと、リナリーは<真実のお茶を>を口にした。
じっ・・・と彼女の変化を伺う。

「このお茶、おいしいですね」

笑顔でリナリーがそう言った。

だんだんとリナリーの頬が、ほんのりと赤くなっていく。
お茶が効いてきた証拠だ。
その姿が実に可愛い!

今だ!今がチャンスだ!
勇気を出して、リナリーの本心を聞き出すんだ!

「あ、あああああのぉリナリーさん!
リナリーさんには、すっ、すっ、好きな人とかは・・・いらっしゃるんですか?

うお!なんてことだ!どもった上に声が裏返り、かんでしまった!!

「す、好きな人・・・ですか・・・?」

さらにリナリーの顔が赤くなっていく。

ん?なんだこの反応は。決してお茶のせいではないぞ?
これは・・・、これはもしかして・・・、まさか・・・・・!?

「・・・一応、います・・・・・・・」

小さな呟きだが、ハッキリ聞こえた。

(なっ、何ーーーーーーー!?)

心の中で叫びを上げる。

リナリーに好きな人がいるだと!?

「それは誰ですか!?」

「一週間ぐらいほど、ココ(本部)に居た人なんですけど、とてもキレイな人で・・・――。
あ!男の人にキレイって言うのは変ですよね。でも、ほんとにキレイな人なんです」

その男を思い出しているのか、うっとりとしてリナリーが語る。

綺麗な男だと!?つまり美形ということか!?
きっとリナリーは見た目に騙されてるんだ!!そうだそうに違いないっ!!!

しっかりするんだリナリー!!!!

「―――――私、その人に救われたんです」

何?救われた?

「彼は他人を振り回してばかりで、何考えているのかわからないし、とんでもない行動とるけど、
でもどうしても憎めなくて・・・――。
すごく真っ直ぐで一途な想いを持った人なんです

―――あの日、あの時、私が彼を『好き』だと自覚した時―――

「彼にそんなつもりは無かったんだろうけど、彼の言葉で私は進むことが出来た。
どうであれ、私を救ってくれたのは彼なんです。私はそんな彼に惹かれて、気づいたら好きになっていたんです」

ふとリナリーの表情に影が射す。

「私は彼が好きだけど・・・・・。彼には守りたい、とても大切な人がいるみたいで・・・・・」

何?とても大切な人だと?
それはつまり<好きな人>と言うことか?・・・っと言うことは、リナリーの方が片思いなのか!?

「でも、それでもいいんです。大切な人のためにがんばってる彼が、好きだから」

そんな!それほどにまで、その男のことが・・・っ!?(泣)

「あ・・・あれ・・・?私・・・なんでこんなこと・・・・・・」

一通り想いを話したリナリーの顔が、次第に青くなっていく。
どうやらお茶の効果が切れたらしい。

「バっ、バクさん!今のこと、誰にも言わないでください!!秘密なんです!!!お願いします!!!!」

「え・・・ええ・・・、もちろん・・・・・・」

慌ててリナリーは立ち上がると深々と頭を下げ、必死に頼んできた。
ショックすぎて、そんなこと誰にも言う気にもなれない。

「ほんとですか!?ありがとうございます!!
それじゃあ私はこれで・・・!お茶、ごちそうさまでした!!」

ティーパックとカップを持って、リナリーは逃げるように去って行った。





ああ・・・なんてことだ・・・・・・。
リナリーに、好きな人がいるなんて・・・・・・。オレ様の恋は終わりなのか・・・?

――――――いや待て!
もう相手には好きな人がいて、リナリーの片思いだ。まだチャンスはある!

おのれ!どんな男だろうがオレ様の方が優れている!!
そいつは運が良かっただけだ!必ずやリナリーの目を覚まさせてやる!!

決意を胸に、部屋に戻るのに廊下を歩く。

「きゃっ」

角を曲がると誰かとぶつかった。
声からして女だろう。

オレ様はよろけはしたが倒れなかった。
だが女の方は、どうやらぶつかった衝撃で倒れてしまったらしい。
女が持っていたと思われる本や書類が辺りに散らかった。

このオレ様にぶつかってくるとは・・・、なんて無礼な奴だ!

「気をつけたまえ!」

「・・・ごめんなさい」

澄んだ声。
すらりとした白い脚に目が行った。
リナリーの他に、こんな美脚の持ち主が居ただろうか。

良く見れば・・・――。
東洋人のような艶やかな漆黒の長い髪。だが東洋人とも西洋人とも取れる整った綺麗な顔。
キメ細かく、滑らかそうな白い肌。そして、ルビーのような紅い瞳。

―――美しい・・・、美しい女性だった。

彼女の美しさに思わず惚けて見とれていたら、当の本人はせっせと書類を拾っていた。

「いや、こちらこそ失礼!少しイラついていたもので・・・・・。手伝いますよ」

「あ・・・すみません・・・・・」

慌てて本を拾うのを手伝った。





科学班に行くと言うので、本を持ってあげることにした。
ぶつかったのは、積み重ねていた本の上に書類を乗せて運んでいた為らしい。

科学班に着くまで、自己紹介などイロイロ話をした。

白いシャツにリナリーと同じミニスカートの上から白衣着た、首から銀の十字架のペンダントを提げた彼女の名前は
この名の人物についてはアジア支部にも報告があった。
彼女は複雑な事情を持っている。
その貴重性から、エクソシストでありながら任務は無く、本部から出ることも許されていない。

エクソシストとして働けない為、代わりに科学班で働いているそうだ。

ああ、なんて健気なんだ!

話しているうちに、彼女がどういう人物なのかわかってきた。
最初は女性と言う表現の方があっていたが、こうしていると可憐な少女という方が合っていた。

「ありがとうバク支部長。運んでもらって」

「いえいえ!気になさらず!この髪のせいとは言え、ぶつかったこっちも悪いんですし」

「あの・・・その髪・・・・・・」

「えっと・・・これは、誕生日プレゼントとかでコムイの奴が――――」

「やっぱり・・・・・」

オレ様の、うっとうしいほど伸びた髪が気になったのだろう。
コムイの名を出せば、は呟いて溜息を吐いた。

「仕事しないで、ニヤニヤしてなんか作ってたと思ったら。また迷惑な発明してたんだね・・・」

「あのさんは、科学班にお一人だけ残って仕事ですか?」

「うん、私の分はまだ残ってるし。でももう少しで終わるんで、そのあと本でも読もうかと思ってるんだけどね」

そうが笑顔で答えた。

ああ!笑顔が可愛い!!そして美しい!!!
あなたの笑顔の前では、天上の女神も卒倒してしまう!

「でも、間違えて誕生日パーティーをしたことは怒らないで欲しい・・・」

「ええ・・・それは、祝ってくれる気持ちはうれしいので・・・・・」

「それだけじゃないと思う」

「え?」

「あのパーティーには、エクソシストや探索部隊(ファインダー)とか、戦いの前線を行く者達なんかが呼ばれてた。
コムイはバク支部長を祝うと共に、彼らにも楽しんでもらいたかったんだよ」

「・・・・・そうでしょうか・・・・・・?」

「うん。そう思う。コムイは立派な室長だから」

コムイが立派な室長だと!?そう捉えてしまうのか!?
だがしかし、そんな風に思うなんて・・・・・。
なんて心優しいんだ!!

「ここには皆が居てくれる。だから、戦いから帰って来たい。―――そんな風に思って欲しいんだよ。
私もそう皆に思ってもらいたい。それが少しでも戦い抜いて帰って来てくれる、力になるなら・・・・・」


想いのこもった言葉に、美しいその姿に、胸がじーんとした。

ああ・・・なんて・・・、彼女は心身ともに綺麗なのだろう・・・・・。
まるで女神のようだ。
こんなにも素晴らしい女性が、この世に居るなんて・・・・―――。

ちゃーーーーーーん!!!!」

この声は・・・!

「あ・・・コムイだ・・・・・」

が言うとおり、声が聞こえて来た方を振り向けば科学班にコムイが走り込んで来た。

「あれ?姿が見えないと思ったら、バクちゃんもいたの?」

トゲのある言い方をコムイがしてくる。いたら悪いか!?

「なんだい!?こんな所でふたりっきりで・・・!!
ハッ!まさかっ!ちゃんに変なコトしてないだろうね!?バクちゃんッ!!!」

「なっ!何を言っている!失礼だぞ!!」

「言っとくけど、ちゃんには指一本触れさせないよ!」

せっかくと仲良くなる機会だとい言うのに・・・!!また邪魔をする気か!?

「なんでキミに、そんなこと言われなきゃいけないんだ!?」

「お兄ちゃんであるボクが、かわいい妹であるちゃんを心配して何が悪いんだい!?」

・・・・・・・・今なんと?お兄ちゃん?妹?がコムイの・・・妹?

「そんなバカなぁあぁぁぁああぁぁぁッ!!!!」

ごんっ


「バク支部長っ!?」

ショックのあまり発作的にデスクの角に頭をぶつけた。血が頭から噴出す。
そんな中、心配してくれるの声が聞こえた。
彼女の優しさが心に染みる・・・。

さん・・・・・、ほんとに・・・コムイの妹なんですか・・・?」

リナリーだけじゃあなかったのか?第一、全然似てない。

「違う!コムイに勝手に妹にされたんだ!勝手に言ってるだけ!」

そうなのか!?良かった・・・・・。
よーし、そうとわかれば、頭から血が出ているが構わず復活!

ちゃん・・・・・・・」

「コムイ・・・?」

コムイが向き合い、の両肩を掴む。

「ちゅーしよv」

「「はぁっ!?」」


コムイの発言に、オレ様との声が重なる。

「わっ、コムイお酒臭い!酔ってるでしょ!?」

何!?こいつパーティーだから酒なんて飲んだのか!?
酔っ払ているとは言え、なんだ今の発言は!!貴様にとって、は<妹>じゃなかったのかッ!?

「ちょっ・・・コム・・・っ」

コムイの顔がに近づいて行く。こいつ本気だ!
両肩を押さえられている為、は逃げられない。

ギャーーーーー!!ーーーーーーー!!!!

「いい加減にしろッ!!このシスコンバカ室長ーーーーーー!!!!」

バーンッ!


はデスクに乗っていた本を掴むと、勢い良く怒りの一撃をコムイに喰らわせた。
バタッとコムイが倒れる。

「お前なんて立派でもなんでもないッ!!やっぱりタダの変人だッ!!!!」

気絶したコムイに、ビシっと言い捨てる。
その姿はとても凛々しい!
今のでオレ様もスカっとしたぞ!、あなたはなんて素晴らしい人なんだ!!(感動)



――――

リナリーとは違うが・・・・・。

美しく綺麗な美貌。
女性らしい華奢で良いスタイル。
優しく清らかな心。
可愛く可憐だが、気高く凛々しい姿。

あなたはまさしく女神だ!!

ああ、しかしオレ様にはリナリーが・・・・・。
いやリナリーには好きな相手がいるし・・・、だがリナリーを諦め切れない気持ちもある・・・・・。
オレ様はどうすればいいんだ!!?

・・・・・まあ急ぐ必要は無い。
どちらにしろコムイが居るからな。決めるのはコムイをなんとかしてからだ!
とにかく焦らず慎重に行動しよう。

まずは今日から、の写真もファイルするぞ!!









  END