季節外れの七夕
















          「っひゃー!すごーい!これ全部科学班の人達がやったの?」

          「毎年恒例だからね。今年で何回目かな?」






          感嘆するように目を煌かせる の瞳には、クリスマスさながらの飾りつけがされた教団の景観が映っていた。
          横ではコムイが彼女の反応を楽しむように机に体重を預けながらコーヒーを啜っている。
          すると思い出したように足元のダンボール箱から白い球体を に投げ渡した。







          「あ、そうだ これ。」

          「?ゴーレム?」






          投げ渡されたゴルフボールほどの白いゴーレムを興味深そうに繁々と眺める に、
          コムイは反応を期待するようにこう言った。







          「ただのゴーレムじゃないんだ。投げてごらん。」

          「こう?」

          「…うん、とりあえずもう少し優しく扱ってくれると嬉しかったかな。もういいけど。」






          力入れ過ぎないでね、と言い足せばよかった。
          と内心コムイは少し後悔しながらゴムボールのように室内をゴンゴンと壁にぶつかるゴーレムを目で追った。
          少し勢いが落ちた所でゴーレムは大きな白い翼を広げ、バサバサとそれを使って飛び始める。
          その羽根も特殊で、鳥と同じような見た目に純白だった。







          「すごーい!羽根おっきい!」

          「一晩だけだけどね。過ぎてしまえば普通のと変わらないよ。」

          「あ、羽根落ちた。……雪?」






          感動しっぱなしの の反応に周囲で仕事をこなしていた科学班も思わずガッツポーズ。
          彼女は博学なので大概のものには驚かない。だが今回ばかりはこの発明に心から驚いているようだった。







          「外でやるのは寒いから、って意見が出てね。触っても冷たくないし、積もってる雪の中でやりたい。
           そんなワガママな人々の意見に答えたのがこれさ。」

          「へえ…。」






          適当に返事を返しながらゴーレムとじゃれる に、コムイはそれの入っていたダンボールをどん、と渡した。
          其れなりの数のゴーレムが起動を待っているようだ。
          彼女は「なんで投げないと起動しないんだろ…?」と少し首を傾げてはいたが、取り敢えずコムイの指示を仰いだ。







          「じゃ、これ城の中で適当に放して来てもらえるかい?」

          「何かやるの?」

          「始まってからのお楽しみさ。」




































          「うっわーっ!すごーい!雪だらけー!」

          「さっきから驚いてばっかりな気が…。」

          「科学班バンザイ!寒いのは嫌だし、でも雪では遊びたいし。まさに私にピッタリ!ありがとコムイ!」

          「 、落ち着いてくださいよ…。」






          積もった雪のような物を掬い上げては辺りにぶちまけて遊びまわる 。当然アレンの話など聞いてはいない。
          気分も高揚して嬉々としているようだ。






          「あ、ティムもおめかししてるの?リボンなんて巻いて。」






          ティムキャンピーに微妙に不釣合いなリボンはアレンの物だった。
          不思議に思ってアレンを見直すと、彼もスーツほどかっちりはしていないが、装いを改めている。







          「そういえばアレンも普段と恰好違う…。なんで?」

          「本当に知らなかったんだ…。」

          「何が?」







          さっきリーバー班長が説明してましたよ、というアレンの言葉は が聞いていなかった。
          ティムが をからかうように彼女の頭の上をくるくると飛び回っていたせいもあるのだが。
          それでもアレンはもう一度説明をリーバーにされたように彼女にし直した。







          「僕もさっき知ったんですけどね。この季節ってハロウィンとクリスマス、真ん中辺りじゃないですか。
           それをごた混ぜでやるんです。戦争で亡くなった人達を惜しんだりするんだそうですよ?」

          「…やっと皆浮かれてる理由がわかった。着替えて来る!」







          そう言うと同時に は元来た道を戻って行った。「黒い靴」を発動しているリナリーよりも速いかもしれない、
          とアレンが見送りながら思っているとそのリナリー当人が現れた。








          「はーいいってらっしゃい…。あれ、リナリー。」

          「 、なんで元来た道走って戻ってるの?」

          「着替えに行くそうです。」

          「あ、そうなんだ。兄さんから連絡。会場談話室じゃなくて、食堂だって。」

          「 どうします?」

          「途中で耳に入ると思うよ?」

          「じゃあそういう事で。」




































          「アレーン!」

          「あ、来た。」

          「食堂に変更になったって来る途中に聞いて…。それにしてもここも凄い飾り付けだね。」








          きょろきょろと物珍しい物でも見るように普段闊歩している教団の食堂を見る
          そんな彼女に後ろからリーバーが声をかけた。
          コーラの入った紙コップにストローを咥えながら。








          「さっき見せたゴーレムが飛ぶだけでこうなるんだよ。便利だろ?」

          「うん。」

          「連絡行ったか?」

          「うん、大丈夫。談話室行く途中に聞いた。」







          そっか、と言いながらリーバーがうんうんと頷いていると後ろからリナリーが駆けてきた。
          彼は見事に退けられ、 はリナリーに両手をがっちり掴まれて攫われていってしまった。







          「あ、 !やっと見つけた。こっちこっち!」

          「へ?リナリー?何なに?……ぎゃーっ!ひーとーさーらーいーー!!」

          「こっちだってば!」

          「一体何だって……、え…?」








          突然の出来事に目を瞬かせている の前には恋人である神田ユウが立っていた。
          いつも通りの仏頂面に眉間に刻み込まれた深い皺。別段機嫌が悪い訳では無いのだが。








          「ギリギリで間に合ったのよ。」

          「うるせえな。」

          「ユウ…?」

          「居ちゃ悪いか。」

          「ううん。そんな事ない。本当に、ユウだよね…?」







          確かめるように一歩一歩ゆっくりと進んで行く
          その彼女の顔は、恋人を想い続けるごく普通で年相応の表情をしていた。
          本人だとやっと理解すると、彼女は彼に飛びつこうとした。








          「やっと会えた!…あれ?」

          「 が神田居ない間ずっと寂しそうにしてたんだもの。今日だけでも、と思って。」

          「ホログラム?」








          実体のように見えた神田は立体映像。そのせいで はいとも簡単に彼の体を通り抜けてしまった。
          別におかしな感覚に襲われたわけでもないが、そのせいか彼女は少し顔を顰め、自分の手を凝視している。








          「一回切りのね。一度しか使えないし、この時期にしか使えないって言うの。どうも宇宙にある星がどうとか…。
           難しい理論なんだけど、兄さんが。」

          「「「あー……。」」」








          説明するリナリーと当人の と神田以外のリーバーやアレン、そしてラビは呆れるような声をだした。
          神田も無言で「はあ?」という顔をしている。呆れているようにも見えたが、どちらなのかは には判断しかねた。








          「まあ、今回だけは感謝してやるか。 、後一時間待ってろ。」

          「一時間?何かあるの?」

          「つべこべ言うな。」

          「…わかった。」








          突然された彼の発言に少々疑問を感じつつも一応了解した
          その二人の会話の後ろで、リナリーはさめざめとウサギさんハンカチで涙をぬぐっていた。








          「 、すっかり神田に飼い慣らされちゃって…!」

          「人聞きの悪い事言ってんじゃねえ。じゃあな。」

          「遅刻一分追加ごとに髪の毛一回いじるの許可で許してあげるわ!」

          「リ、リナリー…。」

          「私の を奪って行った罪は重いのよ…!」







         最後まで聞いてはいないと思うよ…?と喉まででかかった だが敢えて言わないでおこうと誓った。
         そして「ややこしい事になりそうだったので、嘘も方便」と実は微妙に見当違いなことを思っていたりもする。




































          そして一時間後。


















          「か、神田…?」

          「うそ…。」

          「ユウ?本当に?」

          「お前ら俺が死人みたいな言い方しやがって。」







          どんな方法使ったんだ、と全員が訝しんでいる中で神田は少し自慢げに口元を上げる。
          だが の為に帰って来た筈。それなのに彼女は近くのテーブルで食事中である。









          「こういう事だ、わかったか?」

          「任務は?」

          「終わらせて来た。」

          「え!?」

          「回収して来たぞ。ヘブラスカのところに渡した。」







          けろりと言い放った神田に、周囲は顎が外れるかと思った。
          たかが彼女一人の為に生きるか死ぬかの任務を短期で完了させてくるこの男。
          隠れて実は溺愛してるんじゃないかと内心思わずにはいられなかった。









          「…あ、ユウ!!」








          そして今更になって神田が帰って来た事に気付いた はブーツの底をカツカツと鳴らしながら彼に近づいて来た。
          ホログラムの時と同様に抱き付くのかと周りの誰もが思ったのだが。

          顔面を殴りつけた。









          「よかった、ちゃんと帰って来た…!いつも気がついたらいないし、行き先告げないで行っちゃうから!
           心配でしょうがないんだよ!?」

          「別にそんなに心配しなくたって帰って来る。」

          「そう言っていっつもケガ無しで帰って来たためしないじゃない!ホログラム通りぬけちゃった時は本当に
           幽霊だと思ったんだからね!!」

          「勝手に殺すんじゃねえ。」

          「真面目に話聞きなさいよー!こっちだって真剣なんだから!」








           の説教を軽く流してしまう神田だが、流石に図星なのか反論しない。
          段々と言葉に力が入って来て説教に熱が入り始めたところでリナリーが彼女を留めた。









          「 、その辺にしといた方が…というわけで。神田、 泣かせたらただじゃおかないからね。」

          「そこでなんでお前出てくるんだ。」








          心配だからにきまってるでしょ、と大きく息をついたリナリーの後ろからもアレンやラビが顔を出した。
           としては心強い事この上ないのだが、神田にしてみれば「いらんことしい」だったらしい。
          少しづつ自分を抱き寄せる手に力が入っている事に は気がついていた。








          「 、寂しかったら僕もいますから。」

          「俺もいるさー。」

          「科学班はいつでも席空けて待ってるからね!」

          「たまには愚痴くらい聞いてあげるわよ。」

          「み、みんな…。」








          アレン、ラビ、コムイ、リナリーの順に寂しかったらおいで、と言ってくれたのは にとって嬉しかった。
          だがその彼氏にとっては「人の彼女を掻っ攫っていく鳶」に見えたらしい。
          額に青筋が浮かび、六幻の柄に手を駆けている。







          「半分ユウからかって遊ぶ為でしょ?」

          「「「「それ以外に何が?」」」」

          「…っテメエら全員そこに正座しやがれ!首刎ねてやる!!」

          「ほらー!!」

          「ユウが怒ったさー!全員退避退避ーっ!!」




































           「………おー…。」

           「あ、片付け頼んだわ。それから…。」

           「あそこにいるバカ騒ぎの馬鹿どもも使って構わんから。」

           「はあ…。」









           一晩過ぎた。
           いい加減に騒動も収まっていいはずなのだがまだ煙がたっている。
           どうやらエクソシスト達は対アクマ武器も動員してのバトルが始まったらしい。
           コムイはコムリンを引っ張り出して来ているし、食堂に食事をしに来た探索部隊は困っていた。
           当事者達はその後瓦礫掃除を3日かけてやらされた、というのは別の閑話。




































     後書き


   樹様、一万ヒットおめでとうございます!
   閑文字を連ねただけの小説ですが、よろしければ受けとっていただけると恐縮です。
   言ってから随分時間がかかりましてすいませんでした。
   それでは、この辺りで失礼させて頂きます。
   今回、ウチの短編ヒロインを動員させて頂きました。
   本当におめでとうございます!!




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